甘く苦い味がする
甘凌+呂陸(両片想い)前提の凌統+陸遜
「軍師さんは、盲目過ぎるんじゃないかねぇ」
ず、と茶をすすりながら凌統が言った。
その向かいで棗に噛り付いていた陸遜は、きょとんと首を傾げる。
「盲目、ですか」
何を主語に盲目、と言いたいのかは頭の回りの早い陸遜は理解していた。呂蒙の事だ。だが、それをどうして盲目と評されるのかは分からない。
ただ、素晴らしい人だと思っているだけなのに、と。
とある時から、凌統は適当な理由をつけて、自室に陸遜を引き込む様になった。
「軍師さんは、働き過ぎるからねぇ」と凌統は笑って、茶と茶請けを出す。そして、少しだけ話をするのだ。仕事の話ではなく、個人的な話を。と言っても、どうしても凌統の話には甘寧が登場する事が多いし、陸遜も呂蒙の事が多くなる。
それが片手程の回数になった時、陸遜は思い切ってどうして自分を、と尋ねた。自分では話し相手に向いていないのではないか、と。
緊張した声でそう尋ねた陸遜に、凌統は曖昧な笑みしか返してこなかった。
「うん。もう見ててびっくりするくらいの盲目だって。やっぱ自覚ない?」
「自覚……と言われましても。私は、呂蒙殿を尊敬していますから。そう見えてしまっても仕方がないのかなとは……」
「……」
凌統が目を細める。こういう表情を色っぽいと言うのだろうか、と陸遜は思った。実際彼は色男なのだから仕方がない。
「……な、なんですか」
「いーや、こりゃ呂蒙殿も苦労するねぇと思ってさ」
ああ、軍師としてじゃなくてね?と凌統は続ける。では一体何としてか。陸遜には思い当る言葉は見つからない。
それを聞く前に、凌統が言葉を続ける。
「軍師さんは、俺みたいになっちゃだめだよ」
「え?」
「言いたい事は、言える方が良い。言えないのは辛い。それが自分の所為だとしても」
「凌統殿……?」
「ああ、でも甘寧みたいにもならないでよ。あれは言いたい放題の馬鹿なんだから」
「は、はあ……」
軍師という者の性か、人の気持ちや行動を読むのは得意な筈なのに、陸遜にはちっとも凌統の言いたいことが分からなかった。
ただなんとなく分かるのは、それがやはり呂蒙に関する話なのだろうという事だけだった。
「凌統殿は」
茶を啜る。やや薬湯めいた味だが、上等なものなのだろうとは理解が出来る。
「何か、甘寧殿に言いたくて言えない事が、おありなのですか」
「アイツに言ってやりたい事はいくらでもあるよ。……仕事の事なら」
「……」
そういう事ではなく、と言っても凌統はやはり曖昧に笑うだけなのだろう。
(いつかそれを聞ける日が来るだろうか)
自分が何か、言いたい事を見つけた時にはそうであって欲しいと陸遜は思った。