好みではありません。
あんさんは、と前置きをして、「はっきり言えば、ワイの好みちゃうよな」
ふう、と紫煙を吐き出しながら、黒豹はそう言った。
「はい?」
「聞こえんかったか?」
「いや、聞こえたっすけど……」
だからどうしろと、という顔で子津は黒豹を見た。相変わらず子津では読み切れない表情がそこにはある。
「いや、ワイかて言ってどないしよ、とは思うけどな。まあ事実やし」
「はあ……」
ごくり、とスポーツドリンクを一口飲む。
――別に、なんとなくそうだろうなぁ、って知ってたし。
好みじゃないけど、からかうに丁度いい感じ。そんな認識だろうと子津は思った。
「つれへん反応やなぁ。何時もみたいにぎゃーぎゃー言い返さんの?」
「反応しづらいっす、正直」
「先輩がなんか言ったら反応する、常識やろ?」
「じゃあもっと反応しやすい事言って欲しいっす」
「あんさんも言う様になったなぁ」
けらけらと黒豹が笑う。手元の煙草はかなり短くなっていた。
煙草の先の煙も、黒豹の口から吐き出される煙も、風上の子津へはほとんど届かない。
「思うんやけど」
煙草を携帯灰皿に押し付けて消して、黒豹が立ち上がる。子津もボトルの蓋を閉めて、立ち上がった。
「好みちゃうから割とやってけるんやろうなぁ」
「僕と、っすか?」
「他に誰がおんねん」
「まあそうっすけど」
ほれちゃっちゃと投げ、と黒豹が促す。こくり、と頷いて一球投げた。まだまだ完成には遠い。
溜息を吐くと、黒豹が笑う。
「……なんで笑うんすか」
「いや、あんさんのそういう顔は割と好みやな、と思うて」
「なんすか、それ」
「まーまー、ええやん?嫌いゆうとる訳やなし」
それで済ませていいような気はしないが、反論する気にもなれず次のボールを構えた。
「いくっすよー!」
空気を切る音と、キャッチャーミットに突き刺さる心地よい音だけが響く。
――でも、僕は好きだな。
一瞬頭を掠めたその思いは、次の球を投げる頃にはもう消えていた。