かげ
人間と影法師
出会ったのは暑い夏の日だった。
「もうそろそろ、休んだ方がいいですよ」
そんな声が聞こえた。
そいつの言う通り、休んだ方がいいだろう。
じりじりと焦げるような暑さの下でよくもまあ何十分もストバスをしてたもんだ。気がつくとふらふらして、ああやべぇなってちょっと思ったところだったし。
「ほら、そんなにふらついて」
「言われなくても休むつもりだったっつの」
声の方を睨みつけてそう言えば、怯みもせず首を傾げる。
「本当ですか?そうは見えませんでしたけど」
バスケに一生懸命すぎるように見えましたから。
ふわり、とそいつが言って笑う。ような気がした。
「君は変わりませんね」
「……はあ?何言ってんだ。会った事なんかあったか?」
「いえ。スイマセン、言葉のあやです。気にしないでください」
ふるり、と頭を振って謝った。
そいつは木陰でスポドリを流し込む俺を影の外、日向から見ている。
「入らねぇの?」
「入れないんです」
「は?」
入れない、ってどういう事だ。
俺と比べるとだけどチビで、日焼けなんか全然してなくて、バスケなんてしたらすぐ倒れちまいそうで。勝手なイメージだけど、こういう陰で本でも読んでる方がまだ似合いそうに見えるのに。
「入ったら、君には見えませんから」
「はあ……?お前、さっきから何なんだ?」
「何でしょうね……。君に会えて嬉しいのに、君に言える事が見つからない」
「は?会った事あったか?わりぃけど、思い出せねー……」
そいつの表情は変わらない。
けど、どこか寂しげで。
「……また、話をしましょう火神君。またがあるかどうかは、分かりませんが」
一歩、進む。
靴の先が影に入る。
「……!!」
それと同時に、そいつの姿が消えていく。
「僕は影。君だけの、影です」
足が、指が、腕が。
「君と話せて、嬉しかった。……僕の、光である君と」
最後に顔が消えるその瞬間。
(すきです)
そう動いたような気がするのは、気の所為だっただろうか。
「……なんなんだ」
たった数分の出来事が、こびりついて離れない。
影。俺の。
「なんなんだよ……」
立ち上がって、影から出れば、光を浴びて俺の足元には影が。
けれどそれは、俺の影であってさっきのアイツじゃない。
それがたまらなく、寂しく思えた。