白黒的絡繰機譚

跳ね返って、そして

エニグマは、無敵。そう、絶対。
――ぼくはただ、事実をを認めさせたいんだ。
それによってどうなるとか、そういう事では無くて、ただ、単に認めさせたい。
そう、全てはそれだけ。どんなサインにも、意味があるのだから。

「賢い行いじゃない」

そう、それは賢い行いじゃない。
この状態での拒否は、場合によっては自分の身を滅ぼすというのに。馬鹿なんだろうか。

「テメェこそ、賢いとは言えねぇよなぁ? 折角本から戻れたっていうのによォ~?」
「ぼくを本にしたのはお前じゃない。お前のスタンドがぼくを倒すより早く、お前は恐怖のサインを出す」

お前は知っているだろう?紙になる事、紙にされる事……そしてその恐怖を。

「……」
「……混乱のサイン。ほら、ぼくはもうお前のサインを把握してる」
「……」
「だから、噴上裕也」
「……」

ぼくは、確かに見た。
それは揺るぎ無い事実であり、そして真実。

「ぼくに対し『好意のサイン』を出したことを認めろ」

お前は、ぼくに対してそれを示した。
恐怖ではなく、歓喜でもなく、驚愕でもなく、怒りでもない。
そのサインはただ一つ、ぼくはそれを見逃さなかった。

「だからよォ~……そんな訳ねぇってさっきから言ってんだろ?」
「ぼくはサインを見逃さないし、間違えない」

往生際が悪いと思う。
それは戦った時も思った事だっだけれど。

「俺がお前みたいな、ガキ……しかもヤローに、好意のサイン? 逆だったら分からなくもないがなぁ~、俺ってカッコいいからよォ」
「……」

自惚れ、更には見下し?
確かにぼくはお前より年下ではあるけれど、だからといってガキなわけじゃない。
ぼくを貶める様な発言をすればするほど、それが自身に跳ね返る事に気がつかないのか?
そして更には、ぼくがお前に、好意のサイン?
それこそ、意味が分からない。
ぼくがそんな……分かり易い上にくだらないサインを出す訳が無い。
お前とは、違うんだ。

「……ん?どうした、図星か?エニグマ」
「……エニグマじゃない、ぼくは宮本輝之輔、だ」

ニヤニヤとした、自信に満ちた笑みを浮かべる。
こういう態度は……嫌いだ。人の名前を呼ばないでのそれは、特に。

「じゃあ輝之輔……今のは、お前の『混乱のサイン』か?」
「な……っ」

ぼくが、サインを?それも、お前に見抜かれる様なものを、出す筈が……!
……駄目だ、こうやって、乗せられたら負けだ。冷静さが、全てを決める。

「ヤローに好かれても大して嬉しくねェが……。ま、俺はカッコいいから仕方ないよなぁ……」
「……」

一体何処からそんな自信が湧いてくるのか分からない。分かりたくも無い。

「んん? どうした輝之輔。もう言う事が無いんなら、さっさとお家に帰んな。それとも……認めるのか?」

何が、と聞き返す程ぼくはマヌケでもなければ、図太くもない。
いつの間にかぼくにあった(体勢的にも精神的にも)優位な立場は、この自信過剰な奴に移っている。
どうして?さっきから分からない事ばかり。やはり分かりたくも無いけれど。

「……てやる」

でも、その立場の崩壊によって気が付いた事もある。
正しくは挑発に乗ってしまっただけの様な気も、しなくはないけれど。
……だが!ぼくは能力的に優位なんだ。

「あ?」

だから、ぼくはここで宣言する。優位を保つ為に。

「……とめてやる!ぼくは!お前の言う事を認めて、そして要求する!対価を!同質同等の、対価を!」

畳むには、サインを見抜かないといけない。
そう、それと同じように……ぼくに認めさせたからには、それ相応のものを。
ぼくには、その権利がある。
だから、引き摺りこんでやる!お前を、ぼくの元へ!

「……はぁ?」

そんな間抜けな顔が出来るのも今のうち。
すぐに、そんな顔は出来なくなる。そうに決まってるんだ。

「だから、覚悟しておけ噴上裕也!ま、駄目なら駄目で……畳むから、問題ない」
「あぁ?」

エニグマは、無敵。絶対無敵のスタンド。
なら、持ち主のぼくだって――お前を手に入れるくらい、出来て当然なんだ!