白黒的絡繰機譚

届かぬ願い事

ンドゥール死ネタ テレンス←ヴァニラ要素有



――後ろから声がする。声がして、部屋に誰かが入り込んでいることにようやく気がついた。

「泣かないのか」
「……泣きませんよ」

侵入者の低い声が、頭の悪そうなことを呟いた。
私が……これくらいで泣く訳がない。寧ろ、どうして泣かなければならない?
それに、もし泣くとしても貴方の前でなんか泣きませんよ、ヴァニラ。

「泣いた方が楽という場合もある」
「楽?……貴方、私に泣いて欲しいんですか」
「……さあ」
「……」

苛立ちが募る。
何故、私に構う?声をかける?

「テレンス」
「何です、さっきから……用もないのでしたら、話しかけないで頂きたい」
「テレンス」
「……っうるせぇんだよォ!!――……一人に、してください。今は、誰かと話す気分じゃない」
「しかし」
「……ヴァニラ……貴方、先ほど言いましたね?『泣いた方が楽という場合もある』と」

これは、ヴァニラを追い払う為の口実だ。そう、そうだ。
私が泣く訳なんかない、そうでしょう?

「私を、楽にさせて下さい」
「……」

少し間を置いて足音がやっと響く。
早く、私を一人にして。泣く訳なんてないけれど、それでも一人の方が今は楽だから。

「……テレンス」

扉が閉まる瞬間、聞こえる前に、耳を塞いだ。

「……どうせ」

私一人だけの部屋は、静かだ。
何時もは人形達の声が細く聞こえる筈なのに、今日はそれもない。
……もしかしたら、私が聞いていないだけなのかもしれない。
そんな余裕も、本当は持ち合わせていないから。

「未練なんてないんでしょう。真っ直ぐあの世へ行ったんでしょう」

魂なんて不確か極まりない。
けれど、私はそれが存在する事を知っている。
同時にそれが向かう先があるという事も。

「読む気にもなりませんでしたけど……今思えば、読まなくて良かった」

あの時、信じろと言った癖に。どいつもこいつも、総じてクソ野郎だ。
貴方だって、他がもっとクソ野郎だから、少しばかりマシなように思えただけだ。そう、全ては錯覚だ。幻想だ。

「私は、貴方が――」

貴方が、死んだ位で、

『信じろと?』
『……いや、お前の好きにしたらいい。嘘だと思うなら、スタンドで探ればいい』
『……』
『お前の、好きにしたらいいさ』

あの時、どうして笑った?
私のスタンド能力を知っていて、どうして。

「……あの時『魂をかけますか?』と、聞いておけば……良かった」

あれは賭けとは程遠いものだったけれど、あの言葉が鍵となる筈だから。
あの言葉が嘘ならば、私の勝ち。
私の望む結果になるとは思わないけれど、それでも……万に一つでも、ここに帰ってくる可能性があったのならば聞いておけば良かった。
そんな事を考える中核となる想いも、もう届かない。

『死ぬ気はなんてない……DIO様が、お前が、俺を必要としてくれる限りは』

創造の神も掴めぬ水には、もう、何もかも。私に掴めるのは、頬に流れる細い水脈だけ。