白黒的絡繰機譚

Lover's High

意味のない事がきっと、何よりも楽しい。
なぁ、そう思わないか?

「……という訳でわたしを放すなよ、ラバーソール」

という訳、というのが何を指すのかは正直、自分でも良く分からない。
けれど、わたし達に訳なんてあってないようなもの。理由なんて他人が考えるもの。
ともかくお前は、わたしを放さないようにしていればそれで良い。
逃げる気はないけれど、そんな事が出来ないくらい強く強く抱きとめて欲しい気持ちはある。

「それは別に構わねぇんだけど……」

歯切れの悪い言葉の後に何が本当は続く筈だったのか、わたしには分かる。

「ん? 何だ、不満か?じゃあ今すぐ別れようか」

わたしはマリーという名前でも、ハートの女王でもないけれど、これくらいは言う権利はあるだろう。
お前の事はああ、大好きさラバーソール!
けれど、わたしの『お願い』を聞いてくれないんじゃ、減点どころか落第にしなきゃいけない、そうだろう?

「それだけは聞けねーわ。アンタと別れられる訳が無い」

あんな事を言われて、怒りもしないのはきっとお前だけだろうな。
これがベタ惚れってヤツか?

「奇遇だな、わたしもだ」

わたし達が一般的にいわれている『付き合う』という状態にいるかどうかは知らないが。まぁ何にせよ、別れる事も、離れる事も出来ないのだ。
だって理由のないわたし達に衝動以上が芽生えたのならば、それはもう、なあ?

「ラバーソール」

別れられない、離れられない、それはとても意味のない事。
だから、わたしはお前の名前を呼ぶ。そして唇をなぞって、身体を捻って上目遣い。まるで毒婦のように。

「……っ」
「どうした?」

視線が物語る『何がどうした、だよ』と。
ああ、勿論この仕草も、目線も、何もかも分かってやっているとも! 何のために『わたしを放すな』と言ったと思ってる?

「まったく、アンタは性質が悪いな。そこらの娼婦も真っ青だ」
「今だけは褒め言葉として受け取っておこう。喜べよ、お前だけの専属だ」
「嬉しすぎて涙が出るぜ……放さなきゃ、良いんだよな?」
「ああ、放すなよ」

身体だけとは言わず、何もかも。衝動なんて湧かないように。
――そう、これが、一番楽しい。
最上級の意味のなさは、わたしを何よりも幸福にしてくれる。
こんな状態、関係、言動、それの全てを誰もが笑うか、目を逸らすさ。それで良いとわたしは思う。
なぁラバーソール、お前もそう思うだろう?

「愛してる」
「愛してる」

わたし達はわたし達だけで、幸福になろう。