フミツケテアゲルワ
「なぁ」進行方向は、軽い男に塞がれて。そしてそれは、私に要求を突き付ける。
「……退いてください」
「嫌だね。俺、今アンタとお話がしたいトコなのさ」
話? ……それだけで済む気がしない。
例え本当に話だけだったとしても、私にそんな気は一切ないのだけれど。内容なんて、たかが知れている。
「お断りさせていただきます。私、貴方と違って忙しい身なので」
「つれないねぇ、マイハニー」
身体を悪寒が駆け廻る。
今、この男はなんと言った?
「……」
いけない、相手をすると疲れるのは私だけ。この男のペースにハマってはいけない。
相手のペースに乗らないこと、自分を保つこと。どれも勝負をするのならば鉄則だ。これは勿論、勝負などではない筈だが。
「お……っと」
無視して先へ進もうとしても、この男はまた、邪魔をする。
更には、私の肩に肘を置いて、顔を近づけてくる。
「……邪魔しないで頂きたい」
「んん? 良いじゃあねぇか少しくらい。なぁに、見られて困る奴もいねぇしな」
確かにこの屋敷は元々人口密度が低く、特に今日は外出も多い。
「困る困らないの問題ではない。これ以上私の邪魔をするのであれば、こちらにも考えがありますから」
「まぁったく……つれないねぇ、アンタは。あの時誓った愛は嘘だったてのかい?ハニー」
「嘘も何も、誓った覚えはありませんが」
「しらばっくれンのかい?あれは忘れもしない一ヵ月前……」
「……っホル・ホース!!」
思わず声を荒げてしまうと、この男はにやりと笑う。マズい。分かっていたというのに。
「……な、良いだろ」
するり、と腕が回る。
……ああ、やはり、だからこの男は!
「……っ!」
思わず、振り払う……正しくは、突き飛ばした、と言うべきか。
「おいおい……いきなり何だよ……」
床に尻餅をついた男は、痛そうに身体をさすっている。
「貴方……私にスキンシップをお望みでしたね?」
一歩、距離を詰める。
ここからは、私の手番。貴方はもう十分だ。
「…… え? あー……そんな事も言ったかも、なぁ?」
「言いましたよね。ならばお望み通り」
肌と肌の触れ合い? そんなもの必要ないでしょう。
それに貴方は……こういうのお好きでしょう?
「踏んでさしあげますよ。ええ……思いっきり、ね?」
……貴方の性格でしたら、コレ、照れ隠しだと受け取ってくれるでしょう?