基準値アンダー×××
光に羽虫が惹かれ、そして焦げていくように俺達はあの方に惹かれ、そしてここにいる
太陽とはきっと一番縁遠いであろうあの方を、けれどそれのように俺達は崇めるのだ
……だが、
「……いや、だから、か」
零れた俺の声は、四方の壁に吸いこまれて消えた。
部屋の主は現在は自身の仕事の為に、ここにはいない。
普段ならば、先ほど俺が発したような声は、壁に吸いこまれる前にテレビゲームとやらの騒音(としか俺には思えない)に飲み込まれている。
そんな静かな部屋の外からは、まだこちらへ向かう足音は聞こえてこない。
「……」
…… ここで安らげるようになったのは何時からだっただろうか。
時期は曖昧だが、理由はしっかりと覚えている。
奴が『俺と同じ』だと知ったからだ。心から悪でありながら、あの方とは全く違う、低俗さが、気に入ったのだ。
「フフフ……」
心からの悪でありながらそれを否定し、他人を気にしないふりをしながら固執し、自分を認めて欲しいと願う。一人で立っているつもりで、誰かに寄りかからなければ生きていけない。
それに何故惹かれたのか? きっと考えるだけ無駄だろう。きっとアイツも、何故俺なのかと考えているのだろうから。
お互いに分からないのならば、きっとそれが答えだ。
……きっと、そんなものなのだこんな事は。
本人に知られたら、大変な事になるだろう。けれど、真実なんて得てしてこの程度であったりする。
「……」
口元が歪む。そしてまた零れそうになる笑いを抑える。
遠くに、靴音が聞こえる。
扉が開く前に、この歪みを直さなくては、機嫌を損ねてしまう。あれは、そういう質だ。
「テレンス」
呼んだ声は、また壁に吸いこまれて消え、それと同時に扉が開く。
「……おや、いたんですか」
「勝手に入っては悪かったか?」
「そうではないですが……何かあったんですか?そんな顔をしているなんて珍しい」
どうやら笑みが消し切れていなかったらしい。だが、これは仕方ない事だ。
「そうか? 別に何もなかったんだがな……ここでする事なんて一つしかない」
この部屋は安らげるが、それは部屋の所為ではない。
ただ単に、お前の部屋だからというだけだ。
「待っていた、テレンス」
部屋の主がいないから、きっとあんな事を考えるのだろう。
お前もそうだろう?
今だけは、どうしようもないお互い自身を忘れよう。それがきっと、お互いの為なのだから。