白黒的絡繰機譚

知らなくて良いよ

キミは知らないね。それで良いとワタシは思うのだけれども、キミ自身はどうなのだろうね?
……まぁ、ワタシに教える気など、少しも無いのだけれども。

「……」

今黙っている理由は、お互いに読書をしているから。けれどそれは表向きの理由で、本当はこの空気を壊したくないと願っているから。
多分キミは、五月蝿くなくて効率が良いとか思っているのだろうね。
少し寂しい気もするけれど、実際のところは好都合。……主にワタシだけにとって、だろうけれど。

「……ふう」

ページを捲って、息を吐く。専門用語で埋め尽くされる様な固い書物はとても有益だけれども、こういう場では少しも役に立ちはしない。
いや……そうでもない、か。
文字数というのは時間をとても食らってくれる。1秒でも長く、と願うワタシの様な者には、中の知識よりもずっと有益なのかもしれない。

「……!」

私が息を吐いた所為で動いた背中に連動する様に、僅かではあるけれども動く肩の感触。
もし今、キミにこれについて問いかけたら、きっと否定をするのだろうね。その仕草はとても愛らしいから、実行したい衝動に駆られるけれども、そうしてはいけない。
そんな事をしたら、この時間が、空間が、空気が終わってしまうのだから!

「……」

背中越しの熱。体温。ロボットにその単語が当て嵌まるのかどうかはさておき、それはとても心地よくて、それと同時に酷く落ち着かなくて、手の中の書物の単語も熟語も文も章も全て滑るばかり。
ワタシはこんな感じなのだけれども、キミはどう感じているのだろうね?
ワタシと同じであるのならば、嬉しいけれども……いやいや、高望みはいけないね。1番の望みを叶えた筈なのに、ワタシの欲求は膨らむばかり。
こんなワタシを、キミは嫌いになるだろうか?
……なんて、答えは分かり切った事……というのはやはり、ワタシの傲慢だと、キミは怒るかい?
どうでも良い様な、無駄な考えばかりが浮かんでは消えていく。けれども、ああ、こんな今がきっと。

「……ふふ」
「……気持ち悪い笑い方をするな」
「気持ち悪いって……それは流石に酷くはないかい?」
「……事実を言ったまで」
「酷いねぇ。だが……」

この先は、言わない方が身の為だ、分かっているよ。
この背中も、声も、雰囲気も、空気も、全部全てが、ワタシのもの。キミはきっと無意識に、ワタシの全てを受け入れて、ワタシを甘やかす。
そうしてワタシは、キミをまた愛していく。こんなループ、キミは知らない、教えない。
……キミの事だ、こんな事を思っているなんて知ったら、恥ずかしがって止めてしまうだろう?