白黒的絡繰機譚

マシンガントーク

知らないなら、知ればいい。知りたいなら、聞けばいい。
そんな、簡単な事を。

「話がある」

ポケモンリーグの、関係者用施設。その廊下で見かけた姿は、俺が望んでいたもの。
会うのは数回目だが、声をかけるのはこれが初めてだ。
どうして声をかけたか?簡単だ。見ているだけじゃ、満足できないと気がついたから。

「話?僕に?」

随分と不思議そうな顔をされた。
確かに今まで声なんかかけたことなかったし、仕方が無いんだろう。
けど、俺としてはそこで少しくらいは喜んだり、期待したりして欲しかったと思ってしまう訳で。

「ああ。駄目か?」
「ううん、そんなことないよ」

さっきから見つめてるのはお互いだけ。まあ他に目を惹くものもなければ、誰かがいる訳でもない。
そんな環境――こんなに近くにいるのも、目線を合わす事も多分、初めてだ。

「で、僕に話って?……ええと、デンジ君」

話、はなし、話し。さて、話とは。
……そこでふと、

「……あ」

俺がなんと切り出すべきなのかさっぱり考えていなかった事を、思い出した。
馬鹿か、俺は。
――クロガネの新しいジムリーダーで、ミオのジムリーダーの息子。更には炭鉱の若き責任者で、無類の化石好きらしい。
……なんてのは、誰でも――オーバですら知ってるプロフィールだ。誰に聞くまでもなく、ちょっと耳を澄ませれば聞こえてくる程度の情報。
俺が知りたいのは、そんなことじゃない。
『ヒョウタ』という人物について、もっと深い事が知りたい、そう思っているんだ。

「……デンジ君?」
「ん、悪い。その……」

自分を取り繕って、相手に合わせるのは好きじゃない。
俺が俺でいられないなら、何も意味が無いんじゃないかと思う。
お互いがお互いの素を受け入れてこそ、が俺の理想だ。……と前、オーバに言ったら、何故か呆れられたんだが、俺は別におかしくないよな?
だから、呆れられるのは覚悟の上で、正直に言おう。

「……特に、話す事がある訳じゃない。一度、話がしてみたいと思ったから、声をかけてみただけなんだ」
「……」
「……」

なんだろう。
目の前にあるヒョウタの顔は、ポカン、というかキョトン、というかそんな顔だ。
呆れられた……という訳ではない、と思うんだが、なんだろう。ざわり、と落ち着かない。

「……ふふ、はは……アハハハハ!!」

そんな俺の心中を知ってか知らずか、突如響く笑い声。
ああ、こんな風に笑うのか、想像していたより可愛いな。……なんて考える俺は、結構余裕があるみたいだ。
……その割に心拍数が上がっている様な気がするのは、やっぱり気がするだけだと思いたい。

「……ああ、ゴメン。なんだろう、デンジ君ってそういう人なんだ」

どういう人だと思われてたんだ、俺は。聞きたいような、聞きたくないような。
オーバから聞かされる限りだと、俺の噂はあんまり良くないものが多いらしい。
その割に『かがやきしびれさせるスター』なんて看板に書かれるから、噂なんかはアテに出来ないが。

「それは、どういう……」
「あ、ええと、その、変な意味じゃなくて。僕の勝手なイメージだけど、君がさっきみたいな言動する人だとは思ってなかったから」

色々気になる。
一体俺って、どういう風に思われていたんだ?他人はどうでも良い、ヒョウタ、お前にどう思われていたのか、それだけが気になる。

「……ヒョウタ」

口に出してから思う。呼び捨て……で良かったんだろうか。多分年下だと思うし、大丈夫……か?

「何?」
「俺も、お前がそういう風に笑うなんて、知らなかった」

まだ、お互いに何も知らない。会ったばっかりで、話したばっかりで。

「俺たち、お互いの事ほとんど知らないよな。なぁ、もっと話さないか?俺はもっと話したいと思ってる」

自覚して、見つめて、それでも足りなくなって、話しかけて、今、もっと話したいと思ってる。
これは、どうしてだろう?

「勿論!僕も君の事もっと知りたくなったよ」

……ああ、やっぱり想像なんかよりずっと、良い笑顔をするんだな。

「とりあえず、なんかその辺座れるとこで、話そうぜ」
「そうだね。なんか飲みながら。デンジ君は、何が好き?」

尽きない興味と、終わらない、終わらせたくない会話。
まだ知りたい、足りない。
何故なら――そうだ、俺はお前が。好きだから。
だから、もっとお前が知りたい。知りたいんだ。