白黒的絡繰機譚

JはQのもの

吐息が触れ合うほど側にいて、なんてフレーズを見たのはどこだったか。実際の話、そんなに近くにいるのは無理だと思う。
だってアイツのメットの形考えてもみろって。
あの嘴邪魔すぎるだろ。なんのためについてんだよアレ。

「とりあえず引きちぎって良いか?」
「……何を引きちぎる気か分からんが、止めろ。止めてくれ」
「俺がそう言われて止めると思うか?」
「思わんが頼むから止めてくれ……って手を掛けるな手を!」

掴んだ両手を引き剥がされる。
力……というか強度やら重量の差はこういう時嫌になる。

「何だ、つまらん」

コイツの変なところで真面目なフシはどうにかならないもんか。
別に悪いとは言わないが、なんかこう……柔軟性?がない。
フラフラ飛び回ってる癖にな。お前は大昔のヤンキー?とかいう奴か。

「別に、お前を面白がらせるためにいるわけじゃないぞ俺は……」

……そうだったか? なんてとぼけてみても、恐らく冗談にすらなりはしない。
以前まではともかく、今はそんなものだと思うしな。
平和極まりない世界で、戦闘用は暇をもてあまし気味。
テキトーに新型エンジンの実験に付き合って(ムカつく)小金稼いだりはしているらしいが、それと俺に会う以外にお前何してんだよ?
別に何もしてないんだろ? だったら俺を面白がらせるくらいしたって良いだろうが。

「じゃ、何のためにいるんだお前」
「何のため、と言われてもだな……。今日はどうしたんだ。何かあったか?」
「別に」
「……そうか」

……何だその目は。ジュピターの癖に。
言いたい事があるなら言えば良い。その後は保証しないが。

「あー……。やっぱ引きちぎって良いか?」
「だから止めろ……。お前はホント……俺、何かしたか?思い当たる事はさっぱりないが」
「何も」

逆に面白い位何もしてないな。
お前って奴は、俺の言う事を聞いてくれるのは良いんだが、それ以上がない。
正直言って、不満だ。口に出して言ってやるつもりはないが、な。

「……」

おお、悩んでる悩んでる。
別に俺は、困らすのが好きな訳じゃないがな? 俺の一挙一動でアタフタするお前を見るのは面白い。
以前そう零して、クリスタルが溜息を吐いたっけ。お前も同じようなもんだろうが。

「……ジャイロ」
「んー?」
「いくら考えても心当たりがないんだが。……もしかして、アレか。何もないのが駄目か」

おお、御名答。オメデトウゴザイマス。
当てられるのはきっと、お前とクリスタル位なものだろうけどな。
だが、

「気がつくのが遅い」

気がついただけマシだが、甘めに採点してやっても正直合格点ギリだな。

「無茶言うな……。普通に言えば良いだろ」

アホか。言えるか、馬鹿。
俺にそんな台詞が似合うと思ってんのか?
そんな台詞が似合う御仁をお望みなら、俺とは別れた方が良いぜ? 勿論、そんな気なんぞこれっぽっちもないのは知ってるが。

「言わない事に気付くのが男だろ」

まぁ、俺も男だけど。そもそも、ロボットにそれを定義してもある意味仕方がないんだけど。
ともかく、

「お前は俺の望む事を実現する義務があるんだよ」

傲慢? 自分勝手?
誰かはそういうだろうが、別にそうでもないと思うがな。

「なんだそれ……。まぁ、あんまり否定も出来ないが……」

ホラ本人も認めてる。双方の合意があれば大丈夫だろう?
それにちゃんと、理由だってあるんだぞ?

「だろ? なら大人しくその義務を果たすんだな」
「……で? 何をお望みで?」

断らないし、それが当たり前。
そんな風になっている理由は一つ。
お前も分かってるだろう?

(吐息が触れ合うくらい)

何故なら、お前は俺のもの、だから。
そんなの常識だろう? 今更だろう?
ホラホラ、分かってるお前がするべき事は一つ。
その邪魔なメットさっさと外して、俺の望むようにすれば良いのさ。
勿論、それ以上のサービスも忘れるなよ?

「――、傍にいろ」

……ああ、やっぱりらしくない台詞だな。