白黒的絡繰機譚

望むだけ

それだけで良い、と思う。
思う、けれど、やっぱり、どうしても俺は。

「……」

頭を振って、考えていた事を、振り払う。
最近、理解を、した。
言ったところで、行動したところで、変わらない……と。
きっと、分からない。分かってもらえない。
何故なら、きっと、知らない、から。知らない事を、俺じゃ、教えられない、から。

「考え事かー?」

仕事の合間、休憩中。隣同士、二人きり。
それ自体は、何時もの、事。

「……」

否定の、動作を、する。
嘘、だけども、肯定しても、説明が、俺には、出来ない。

「ん? 違うんか」

多分、きっと、お前だけ、だと、思う。
俺に、わざわざ、そんな事を、聞くのは、きっと、世界できっと、お前だけ。
誰かはきっと、それを、寂しいと、言うのかも。でも、俺は、それでいい。

「……」

肯定の、動作を、した。
そうしたら、この会話が、終わってしまうのは、分かっている、けど。
俺には、引きとめる手段が、分からない。知らない。

「ならええんやけど。お前って色々溜めてそうやし、アレだったら俺に言ったら? あんま相談とか、得意じゃないけどな。それでも良かったら」

お前は、嘘を、知らない。隠す事を、知らない。
何時でも、明るくて、眩しくて、直視が、出来ない。
……それでも、見ずには、いられない。

「……分かった」

そんな機会が、訪れる事は、恐らく無い、のだけれど。
返事をしたら、お前が満足そうに笑ったから、それで、良かった。

「グランド……?」

良かった?いいや、それは……違う。
本当は、それで良い、と思いこんでる、だけで、全くそんな事は、ない。
お前は、知らないから。俺は、知っているから。
お前は、俺がこんな事を考えている、なんて知らない。俺は、お前がこんな事を理解できない、と知っている。
交わらない、平行線、不毛、報われない。
でも、それでも、もう、一人に戻れない。
……戻りたく、ない。

「……!」

頭を、振る。何もかも、吹き飛ばすように。
横には、不安そうな、顔が、見えた。br> ……そういう顔が、見たい訳じゃ、ない。
光を消したい訳じゃ、ない。
なのに、

「やっぱ、お前……何かあったんか……?」

陰る、離れる、見えなくなる。
それだけは、嫌だ。嫌だ。
けれど、望む、求める、要求したく、なる。
お前は、何も、知らないのに。知るわけが、ないのに。

「違う。俺は……」

口は、何時もと同じ、あまり動かない。
弁解も、否定も、何も、出来ない。

「だったらそんな顔すんなや……。何か、オレまで悲しゅうなる……」

そんな顔。それは、どんな、顔?
分からない、見えない、知りたくも、ない。
何処からか、湧く、感情が、重くて、煩くて、捨てたくなる。嘘。違う。でも、ある意味、本当。
後悔、自責、悲しみ……そして、喜、び?

「……済まない」

お前に、そんな顔を、させたのに、俺は、そんな顔を、してくれる事を、喜んで、いる。
……そして、また、心のどこかで、期待する。ロボットに、そんなものがあるのかは、知らないけど。
でも、それだけ。それ以上に、どうしたら?
分かってる、理解してる、納得してる。だから、それだけで、何も、しない。
それなら、手に入らないけど、盗られもしない。安定と、安心が、そこには、ある。
それが、多分、正解、なんだと、思う。

「……」

口を開けても、俺には、名前すら、呼べない、から。
だから……多分、望む、だけ。
嘘だ、と叫ぶ、そんな声は、俺には、聞こえない。聞きたく、ない。