白黒的絡繰機譚

聞いて話して考えて

確率、そして予測。
けれど、それでは割り切れない、分からない事がある。
隠し事は無い方が良い。
しかし、全てを共有すれば良いというものではない。
……恋愛にマニュアル無し、とはよく言ったものだと感心する。

「ガルベル」
「……」
「……ガルベル」
「……」

無言と、向けられた背中と、サーモグラフを真っ赤に染めそうな程に感じる不機嫌。
この状況の原因は、既に判明済みだ。
しかし、だからといって事態が好転する訳ではない。
寧ろ、煽っているのかもしれないのだから。

「ガルベル」

だがしかし、残念な事に俺に出来る行動なぞ限られている。
それは蓄積されているデータから判断でもあるし、俺のまったくもって個人的な判断によるものだったりする。
どちらにしても今この状況に置いてはあまり大差がなく、とりあえず行動しなければ全て意味が無い。

「……」
「今回は何だ」

そう、こういう事態に陥るのは何も初めてではない。
その度に俺は、お前に関するデータを書き換え、追記して万全にしてきたつもりだった。
しかし、データのサイズが大きくなるばかりで、特に役に立つという事も無い。
それにも関わらずデータの更新をするのは、もはや習慣としか言いようが無い、無意味な行為だ。

「……別に」

ここまでは何時も通りの流れだ。過去のデータともほぼ違いが無い。
しかし、原因は何時も同じとは限らない……というか、同じだったためしが無い。
俺が原因であった時もあれば、言いがかりとしか思えない時もあったし、この事態が何らかの手段であった時もあった。
多分今日も、俺のデータは増えるのだろう。
無意味ではあるが、別にそれが嫌だという訳では決してないのだ。

「そうか。だがそれではこの状況の説明がつかない」

理由というものはは勿論、存在する。
だが、それが果たして一般常識やその他の基準と照らし合わせてもそうであると言えるかどうかは分からない。

「このままだと、困るんだ。俺が」

何故、そう言えるのか?それはとても簡単な事だ。
今まで同じような、それでいて違う状況に陥った際、何時も困ったからだ。

「……分かってる。どうせ俺は……アンタも、こんな奴嫌だって言っちまえばいい」

どうせ飽き飽きしてるんだろ、うんざりしてるんだろ?
そう発する声は自虐を含んでいる。

「別にそう思ってなぞいない」

それは真実だ。嘘なぞ吐いたところで何になる?
何故か?何時偽るがそもそも存在しない。ただそれだけの事。
しかし、こういう事における誠実は、通常のそれより効果が高い。
……別に、そういう打算的意味合いで誠実でいる訳では決してないのだが。

「……だから、アンタは」
「?」

振り返って、コートに縋りついて、頭を埋める。
……この行動は、初めてだ。

「何で、こんなの好きなんだよ……」

……それはどちらの意味だろうか?