白黒的絡繰機譚

どうか、どうか

そうしてくれてるって、分かってるけど。
信じてるさ。
信じてるに決まってるだろ。
……でも、どうしても不安になる。

「不壊」

呼んだって返事なんかない。
足元を見たって影は影でしかない。
ついこの前の様な、ずっと昔の様なあの夏休みの時みたいな事はもう、多分一生起こらない、から。

『にいちゃん』

耳には残ってる。
今にも聞こえてきそうな気はする。
でも、それだけ。それだけなんだ。
俺はもう、不壊の声を聞く事なんて一生ないんじゃないかって時々考えてしまう。
――信じる事が力になる事は知ってる。
信じる事が不可能を可能にする事は知ってる。
あの夏休みに、全部知った。それを体験した。
でも、どうしても、信じてる筈なのに俺は、時々不安で仕方がなくなる。
……なぁ、不壊。
俺、どうしちまったんだろうな?
ちょっと前ならきっと、お前が見えなくたってこんなに不安になったりしなかった筈なのに。

「……不壊」

こんな風にお前のことばっかり考えてる俺を、どう思う?
でも、こんな風にしたのは多分お前なんだからな。俺、忘れるなんて出来ないから。忘れたくないから。
だから、責任を取って欲しいと、思う。
俺が勝手にだけど、不安になってる責任を、お前に。
……それくらい、良いだろ?不壊。

「やっぱりさ……、会いたいよ」

不安になる。
もうお前と顔近づけて話したり、抱きしめてもらったり、キスしたりできない。
勿論、何時かお前が何事も無かったみたいにひょっこり影から出てくるって、信じてるけど。
俺には見えないけどさ……不壊、笑い飛ばしてくれよ。
馬鹿なこと考えてるんじゃねぇよ、って笑っておいてくれよな。
そうしてくれるなら俺、もうこんな変に不安にならなくて済む様な気がするから。
……信じてる、からな。何時までも、ずっとずっと。

(……信じてる、から。不壊、今更だけど……)

どうか、どうか何時までも俺の傍にいてくれよ、不壊。