白黒的絡繰機譚

ある愛のかたち

くるりくるりと、ぼくの腕を包帯が回る。木乃伊がぼくの腕に包帯を回す。
どちらかというと緩めに巻かれたそれは、数センチずつぼくの肌を隠していく。
もう右足と左足、それに首は包帯の下。いっぱい巻かれてるけど、木乃伊とお揃いではないね。だって顔に巻いてないもの。
そんなぼくの前で胡坐を掻く木乃伊の横には、包帯が一つ二つ三つ転がっている。

「ねえ」
「……なんだ」
「どうしてぼくに包帯を巻くの」

ぼくは木乃伊と違って肌は弱くないし、怪我をしてる訳でもない。

「お前を、誰にも見られない様に、そして俺のだと分かる様にしておこうと思って」
「ぼくを?」
「お前を」

黙々と、木乃伊は僕の腕に包帯を巻く。これで右手が終了。
制服は着たままだから、足は膝までだし、腕も肘までしか巻かれてない。大した面積じゃないけど、ぼく、木乃伊よりミイラみたいだね。

「ねえ、木乃伊」
「どうした」
「一個、ぼくにもちょうだい」

手を差し出すと、一つ、包帯を渡してくれた。
ごそごそとポケットからペンを取り出す。何の変哲もない、ただの黒いインクのペン。でもぼくが文字を書けば、それだけで十分。
ずいっと引きのばして、包帯に文字を書こう。

「八墓」
「なに?」
「何を書いているんだ」
「木乃伊がぼくのものだっていう事を分かりやすくする呪い」
「そうか」
「そう」

呪いの文字を刻んだ包帯を、きっと木乃伊は巻いてくれる。ぼくは知ってるよ。
だって木乃伊はこれが嬉しい筈だもの。ぼくが包帯を巻かれてるのと同じくらいにね。
黙々と包帯を巻いて、巻かれて、文字を書いていく。昼休みは、もうすぐ終わるかな。このまま授業に出ても、きっと誰も何も言わないね。ここはそういう学校だから。包帯くらい、珍しくもなんともないんだ。

「木乃伊はさぁ」

きっと、いつか近いうちに。予感っていうより、確信に近い。ぼくは知ってる、分かってるよ。

「ぼくを、棺に入れちゃうんだよね」

誰にも見えない様に、見られない様に、木乃伊のだと分かる様に、木乃伊にしか分からない様に。
左腕も包帯が巻き終わってる。これで顔以外の見える所は真っ白。
ねえ、もう見えてるところは巻き終わったよ。次は一体どこに巻くの?

「……そうだな。お前を抱いて眠ろうか」

楽しそうに笑う木乃伊の為に、ぼくは呪いの文字を書くよ。
どんな事があっても、ぼくから逃れられない、そんな呪いの文字を。