白黒的絡繰機譚

お静かに

「仁ちゃんはさぁ、喋ろうとし過ぎだと思う」
「……?」

意味が分からない、って顔をしてる。
まあ、そりゃあそうか。

「別に喋んなくても大丈夫だって。俺、仁ちゃんといれればいいからさー」

例えば今みたいに二人でぼーっとしてる時とか。
殆ど毎日同じ場所で同じ事してる訳だから、話せるような話題って実はそんなになかったりするんだけど、そんな時でも懸命に何か話題を探してる、というか落ち着かなさそうにそわそわしてる。
まるで声を出してないと、存在感を失っちゃうって思ってるみたいだ。
実際、影が薄い存在感が欲しいって言ってるし、そうなんだろうけど。

「……そう?」

怖々、といった感じの返事。
アレおかしいな、俺ってそんなに信用されてない?
大きな前科があるから、あんまりそういう事を大きな声で言えないのが悲しいけど……まあ仕方ないか。

「そ、喋んなくてもさ、俺にはここにいるって事ちゃんと分かるから」

肩を抱き寄せて、そんな事言ってみたり。
雷門でサッカーをして学んだ事、口で言うより行動で示す。
本当はこんな風に触んなくたって勿論ここにいるってことぐらいそりゃ分かるけど、単にまあ……触りたいだけ。
ま、仕方が無いよな?そんなもんだろ付き合うってさ。

「でも……」
「ああ、もう!こういう時は何も言わないのが良いんだって!……ああ、ちょっと逃げようとすんなって!」

肩にまわした手が、払われそうになる。
ちょっとちょっと!折角良い感じのムードになってきた様な気がしたのに!

「いや……だって、なんか……嫌な予感するから……」
「……嫌な予感って」

まあ、間違っては無いけどね。本心は嫌じゃない癖に、嫌ですってポーズをとる様な事をしようとしました。
つかなぁ……こうやって家に来といて何言ってんだって気もするけど……まあ、考えてない、か。
そういうところもスキですヨ。

「言っておくけど……分かってるから」

……なんて思いは、どうやらお見通しだったようで、髪の下から、睨まれた。

「あらー……。いやね、そういう訳じゃ」
「…… 何も言わないのが、良いんじゃないっけ……?」

じろり睨まれて、さっきの言葉が見事ブーメラン。あーあ、今日は何も無しで終わっちゃいそうだ。
こうなると俺にはなんにも言えなくて……大人しく、黙っといた方が良い感じ?
でもさ、何もしないなら、くっついてたって問題無いよな?
それ位は許してくれよ。な、仁ちゃん。

「…………」
「…………」

何も言わずに少し開いた距離を詰めて、見つめて笑って、それでおしまい。
……誤解しないでくれよ。俺はこんな風な健全なお付き合い、嫌ってわけじゃない。
だってここに二人でいるんだ。幸せだよ。
そう思って見つめれば、君の顔もそんな顔。