今日も明日も明後日も
時々、終わりを考えてしまうのは不自然なことではないと思う。何時も通り頬にキスなんかしてみたりしつつも、そんな事を考えてみたりしてる。
仁ちゃんの前では余裕ある様に振る舞ってるつもりだけどさ、ホントはいっぱいいっぱいなんだ。
「……明日になっても、こうしてくれる?」
「……?」
できれば、明日も明後日もその次もずっと永遠に。
……なんて、夢みたいな話かな。そうでもないかな。俺には分からない。
けど、今頷いてくれたのは、紛れもない現実。それ位しか分からない。
「そっか。ありがと」
「土門……どうかした?」
横に座ってる仁ちゃんが、俺を覗きこむ。
何時も思うんだけど、その鉄壁の前髪どうなってんの?そういう角度でも目がちらりとも見えないって凄いよ。
「んー……。どうかしたのかも」
「えっ……」
俺は色んな事にどうかしてるよ。言わないだけ、態度に出さないようにしてるだけでさ。
「えっ……土門、どうしたの」
「聞いてくれる?」
「うん」
俺の大好きな人。大切な人。
付き合いはまだまだ短いけど、まだまだ知らない事は多いけど、そんな事関係なく好きな人。
「最初に言っとくけど……俺は別に、その、そうなりたいって訳じゃないから。それだけは誤解しないでくれよ」
「うん……?」
「俺さ、不安なの」
14歳が何言いだしてんだってきっと大人は笑うんだよ。それくらい分かるさ。
世迷いごとだって馬鹿にするのさ。分かってるよそれくらい。
だって俺自身でさえそう思って揺らぐ時があるんだ。
そんな馬鹿みたいな事、でも俺は真剣そのものなんだ。なあ仁ちゃんは分かってくれるかな。
「俺は仁ちゃんの事が好き」
「……知ってるよ」
「でもさ、きっと終わりが来るんだ。俺が仁ちゃんを好きじゃなくなるなんて考えられないし、仁ちゃんが俺を嫌いになるなんて考えたくないけど」
「…………」
早口で俺がそんな事を言ってる間、仁ちゃんはずっと俺を見つめてた。
みんなあの前髪の所為で何処見てるか分からないとか言うけどさ、そんな事ないよ。割と分かり易いよ。
「土門」
ちょいちょい、と手招き。
勿論従わない理由なんてないから、されるがままに身体を乗り出して、まるでキスするみたいな体勢。
もしかして、なんて期待する。
「……?!ふぃ、ふぃんひゃん?!」
……期待は見事に打ち砕かれて、仁ちゃんは結構な力で俺の頬を引っ張る。
更にはつねるまで加わって、洒落にならない状態なんですけどこれ。
「いひゃ、いひゃい」
「痛くしてるから……」
まさかの確信犯ですか。
それはともかく俺の頬はもう、限界なのですが。
「……っ!いったぁ……仁ちゃん酷い」
ばしん、と音がしてもおかしくないくらいの勢いで解放されて、それがまた痛かった。
じんじんと痛む頬をさすって、少し潤んでしまった目で見つめる。……あらら、これ、怒ってるよね。仁ちゃん俺に対して怒ってるね。
「……土門」
「はい」
「俺、怒ってる」
「だね……」
顔は相変わらず近いままで、何時もだったら俺は耐えきれずにキスしてる。けど、今は流石にそんな空気じゃない。ピリピリとした怒りが、俺の肌を刺してくるようだった。
「……俺は、土門が、好きだよ」
「……!うん」
テンションの上がる一言。俺が好きって言って、それに同意の形で貰える事はあるけど、それ以外はあんまりない。
「明日も、好きだよ」
「うん」
「明後日も」
「うん」
「その次も、ずっと」
「うん」
「……真面目に聞いてる?」
「勿論」
その割には、顔がゆるんでる。
なんて怒られて、まだひりつく頬をもう一回つねられた。正直洒落にならないくらい痛い。
「じゃあ何で俺が怒ったか……分かるだろ」
「……はい」
情けなくなるね俺彼氏なのに。男同士で彼氏も何もあったもんじゃないけどさ。
「不安にさせる様な事言ってすいませんでした。もう言いません。俺、何があっても一生好きなんでどうぞ宜しくお願いします」
距離を取って、頭を下げる。
……やっぱりさ、先なんて考えたら駄目だ。だって俺の恋人は、明日も明後日もその次もずっと俺の事好きなんだって!
「こちらこそ宜しくお願いします」
少し笑って、仁ちゃんも頭を下げる。長い前髪が床に擦れてる。
「……ね、じゃあ前向きな事ならいくら言ってもいい?」
「程度によるかな……」
「ええー。仁ちゃんのそういうライン低すぎるんだけど。マークとディランに一蹴されるよ」
「あれはちょっと、無理……」
そりゃマークとディランは俺でも若干引くけどさ、それくらい夢見たって罰は当たらないよきっと。
俺たちまだ中学生で、先の事なんて見えないけどさ。何処でどう大人になって、どんな仕事して……そんな事未知数だ。それでも、一つだけ約束しようよ。
「ずっと一緒にいような」
「……うん」
一緒に歩いていけるなら、大丈夫だよな?