白黒的絡繰機譚

それでも選択する理由その壱

「清川はさぁ」

この人の言葉は何時も、俺を困惑させる。

「俺の好みとは、ちょっと違うんだよなー」

「はぁ」

そんな事をいきなり言ってきて、一体何がしたいんだろう。
一応さ、付き合ってる相手に言う事じゃないよな……。

「あれ。リアクションそんだけ?」

ぐいっ、と体重をかけて押される背中。さっきからずっと思ってたけど、重い。

「他にどうしろって言うんスか」
「ん? あー……。そうだなぁ……」

あんまり考えないで発言してるんだよなこの人は。
ホント、今更だけどガミさんはこんな人なんだよなぁ。ほんっとに今更何だけど。

「……ま、何でも良いっスけどね」

こういう良く分からない事を言ってくるのは、初めてでも何でもない。
だから、俺は『適当に流した方が良い』という事を学習済みである。
でも未だに、ガミさんが何をしたいのかはよく分からない。
(本人の弁を信じるならば)タイプじゃない俺と付き合って、ひたすらごろごろしてオフを潰して一体何がしたいんだろう?
因みに『どっか出かけませんか暇ですし』という俺の申し出は『え、面倒じゃん』の一言でとっくに却下済みだったりする。

「清川ノリ悪ー。ま、そういうとこ清川らしくて俺は良いと思うけど」
「そうっすか」
「でも俺の好みとは違う」
「……じゃあ何で俺のこと好きなんスか」

はあ、とちょっと大袈裟にガミさんは息を吐く。なんか俺が悪い事言ったみたいじゃないっすか……。

「それなんだよなぁ」

ごろりと俺の背中からやっと退いて、横に転がる。
やっと軽くなった背中が少しだけ寂しいだなんて事は特にない。……多分。

「うーん……。あれかな」

うーん、なんて唸っていたけど、あんまり考えてなさそうだ。
……俺は何時の間に、先輩に向かってこんな風に考えるようになってしまったんだろう。
どう考えても全部ガミさんの所為だ。

「清川が、清川だからだよなぁ」
「……意味分かんないっす」
「俺も分かんない。まーでも、そんなもんじゃないの? 清川だってさ、どうして俺が好きなのか聞かれたら答えらんないだろ」
「……」

否定は出来ない。
どうしてこうなってんだ? なんて自問自答しても答えが出たためしがないからだ。
俺とガミさんの関係は、それくらいよく分からない。
別に嫌とかそういうのはないけど、ホントこれ、何なんだろう。てかガミさん、自分でそんな事を言って空しくないんスか……。

「否定されないのも悲しいなぁ。清川の愛が最近薄い……」
「えっ。が、ガミさんのこそよく分かんないっスけど」
「えー? 清川酷い」

俺はこんなに清川の事好きなのにー、なんて言って俺の腰に抱きついて。
でも好みじゃないんスよね、って返せば否定はないけど不満そうだ。
じゃあ言わなきゃ良かったのに。……と思ってもまぁ、後の祭りか。

「清川ぁ」
「なんスか」
「清川は俺の好みとちょっと違うけど、それで良かったのかも」
「はぁ……」

この人の言葉は何時も、俺を困惑させる。

「だって好みだったら、もっと好きになるもんなー。それは絶対ヤバい。そんな気がする」

……じゃあ好みじゃなくて良かったです。本当に、心の底からそう思う。
この人にこれ以上好かれたら、絶対ヤバいって予感がするから。