白黒的絡繰機譚

浸かって零れる

だってさ、それじゃ辛そうじゃん?
俺さ、お前のそういうところが良いところであり悪いところであると思うよ。
もっと気楽に考えりゃ、結構上手くいくもんだぜ?

「だからさー、もう告っちゃえば良いんじないかって事?」

何事も適当に、それでいて良いタイミングってあると思うんだよ俺は。
お前はさ、そういうのを察するのって上手い方な筈だろ?
本当はきっと、俺が言わなくたって分かってるだろ。

「……あ? 誰が誰にだよ」

眉間にはしっかりと刻まれた皺。まぁ、堺さんにはよくある表情。

「ははは、決まってるじゃないですかー。世良に、告っちゃえって事」
「石神……」

ハァー……、ってえらく長い溜息。
眉間の皺がより深くなってるなぁ、堺さん。
あんまそういう表情ばっかりしてると、世良に嫌われるんじゃない?……なんてね

「お前は、そんな事を言う為だけにわざわざ呼び出したのか?」

わざわざオフに、なんて強調して堺さんは言う。

「え? そうですけど」

答えると、また長い溜息。
おいおい……、失礼じゃないですか?

「お前なぁ……。冗談言う為だけに呼び出したのかよ……」

それは流石に酷くないかと。
俺はそこまで暇でも、悪趣味でもないですからねぇ。
……ま、でもここでアッサリ認めないのがこの人らしいとは思うけど。

「……堺さん、世良の事嫌いなんですか?」
「はぁ? ……別に、そういう訳じゃねーけど」

うんうん、堺さんが否定しないなら上出来だよな。
しかも目を逸らすってオプションが付いたなら、やっぱり俺の感は正しかったって事だろ。

「じゃあ良いじゃないですか。世良も堺さんの事好きですよ」
「アホかお前は……。だから、俺はそんなんじゃないって。仮に好きだとしても……アレだ、お前と清川みたいなもんだっての」
「ふーん……」

残念でしたね、堺さん。
今この瞬間、でっかい墓穴を掘ったって事には勿論気が付いていない筈。
俺は確かに、清川の事が好きだよ……後輩として『も』ね。

「……」

堺さんの顔から、少しだけ焦りが見え始める。
あれ、俺なんか顔に出た?
ぺたり、と自分の顔を触ってみる。……ああ、ちょっとだけ口元が上がっちゃったか。

「じゃあさ、やっぱり告っちゃえば良いんじゃないですかね?大丈夫っすよ、だって」

真面目で、全力で、一生懸命。
だけど、そうだからこそ、今この人は自分を殺す事に必死になってる。
そうなる原因は勿論、色々ある事は知ってる(俺だって、悩んだりしたんだぜ?)

「自分自身を押し籠めても、良い結果なんて出ないって知ってる癖に」

迷惑、エゴ、恐怖、否定、将来、現在、その他色々。
分かるよ、分かるけど……それで終わらせて良いもの?
でも、だから俺は世良なら大丈夫だと思うんだ。
確証はそんなないけど、何となくだけど。
それでもさ、望んでるんだろ?
だったら、やれば良いじゃねーか。その方がらしいよ、堺さん。

「……」

その無言はきっと、肯定だよな?








「――……って訳なんだよなー。な、清川良いだろ?」
「いや、何が良いだろ? になるのか、意味が分かんないっす」

ここは空気読んで分かれよ。
俺が堺さんに協力したんだから、お前は世良に協力すべきだろう?

「えー、お前は後輩が可愛くないのかよ」
「別にそういう訳じゃないですけど……。それとこれとは、話が全く違いません? あと放してくれません?」

残念だけどそれは無理。
そんな事言われると、放したくなくなるから。
当分は俺の腕の中にいなさい、清川くん。

「ん、そう? でもさ、言わなかったけどアイツも変わってるよなー。見つめるにしても、あんな顔じゃあ、世良も困るだろ」

気が付いたのは、堺さんのあの視線。
最初は世良の(小動物的かつ犬的)行動がイラつきでもすんのかなーと思ったんだけど、どうも違うらしい。……と気が付いたのは結構最近。
まったく、分かりづらいよな。俺にみたいにこう……、優しい視線をだな。

「……ガミさんにだけは、言われたくないと思いますけど。あと俺の訴えを流さないでください」

「えぇ、清川それどういう意味?」
「何でもないっす。……まぁ、良いっすよ、別に。つっても当人同士の問題だし、俺達がなんかできる訳じゃないと思いますけど……」
「ああ、そりゃそうだろー。ま、ちょっと気にかけてくれりゃ良いよ」

それに、変に世良に入れ知恵とかすると、逆効果になりそうだし。

「まさかとは思いますけど……。ガミさん、相当面白がってません?」
「……いや?」
「……」

おいおい、見上げる視線が怖いよ清川。
けど、別に面白がってばっかりな訳じゃないぜ?

「誤解すんなよなー。俺は――」

仲間で、友達なアイツが、幸せになれば良いと思ってるだけさ。