口に鎖咥えて
結構、この王子様は分かり易い。見られてるなーと思い始めたのは何時からだったっけ。ちゃんとは覚えてないけど、結構前からだった気がする。
最初は何とも思わなかったけど、いつの間にか気がついちまった。見られてる意味、ってヤツに。
……んで、そこからまぁ色々多分あって、今こうなってしまっている訳で。
選手と監督、男と男、26歳と35歳。恐ろしいまでに一般的じゃないなコレ。
そんなんだけど、俺はまぁ……。
「……タッツミー、何考えてるんだい?」
キスして、そして離れたジーノの口が俺に少し怒ったような口調でそう聞いていた。
これって多分、集中してない事が御不満なんだろうね。
「んー……。別に、何も」
と言ったところで納得してくれる王子様じゃないけれど。
かといって『お前の事考えてたんだ』なんて言うつもりも俺にはない。そんな事言ったら調子に乗るし。
「嘘は駄目だよ」
ホラ、やっぱりな。
お前はキャラクターがしっかりし過ぎて分かり易いよ。
「嘘ってお前……。ま、なんでも良いけど」
咎めるようにグイグイと力を込めてくる腕を引き剥がす。
多分王子様的には残念な事に、俺はあんまりこう……、ベタベタスキンシップするのって好きじゃない。
うっとおしいとまでは言わないけど、出来ればほおっておいて欲しい、かな。
「良くない。ねぇ、何考えてたの?」
「だから別に」
「このボクを蔑ろにするくらいなんだから、なんにも無い訳ないでしょ」
剥がした筈の腕をまた腰にまわして、肩に顔を埋めて……そんな姿はまるで母親に甘える子供の様。
俺、まだこんなデカい子供持つような歳じゃないんだけどな。
「お前、今日はしつこいな……」
このしつこさを良い方向で試合に向けてくれると、俺としては助かるんだが……。
まぁ残念な事に、そうしてくれる奴じゃないのは誰もが知ってる。
こういうプライベートでのしつこさを知ってるのは多分、俺くらいかもしれないけど。
「そんな事無いよ。そう感じるんだったら、キミに何かやましい事でもあるんじゃないの?」
「……ジーノ」
どうすっかね、コレ。しかし、分かってんのかねこの王子様はさ。
「……」
こういう事、俺は好きじゃないよ。
……ああ、お前が嫌いとかそういうのじゃなくてね。
「ジーノ」
肩にある頭をくしゃりと撫でる。
多分俺なんか絶対買わない高級なシャンプーとか色々使ってんだろうなー、と思う髪の毛はかなり柔らかくて艶々してる。
「別にどこにも行かないけど、俺。チームとお前で手いっぱいだし、どこにも行けねーよ」
投げ捨てる、って手段もあるけど、俺はそういう事する気はないさ。
だからさ王子様、お前の心配は殆ど杞憂だよ。
「……」
「おーい、聞いてる? 俺の一世一代の告白」
……みたいなもの。
でも本心だからな、ありがたく覚えておくように。
「……ボクがタッツミーの声を聞いてない訳が無いじゃない」
「あそ、ならいいよ……。つー訳で、いい加減解放してくんねぇ? 苦しい」
「嫌」
解放して、って言ってるのに力は加わるばかり。だからどこにも行かねぇ、って言ってんじゃん。
本当に聞いてたんだろうな?
「ジーノ」
「嫌だよ。ボク、タッツミーに触れてないと死んじゃうよ」
酷くまじめな声なのに、言ってるのはそんな事。
「ンな訳あるか」
なんて、返してみてもこの王子様はどうして、
「あるよ。だから本当にどこにも行っちゃ駄目だよ、タッツミー」
こんな事を言うのかね。……知ってるよ、ンな事さ。
「分かってるって。行かねーよ」
そう言っても言っても、この王子様は納得なんてしないらしい。酷い執着心だ。
フラフラするのが好きなんじゃなかったっけ?なのに何時の間にそんな、俺に縛られてんの?
「どこにも、行けねーし」
――それはきっと、俺もそんなに変わらないのかもしれない。
なぁ、ホント早く放せっての。そうしないと明日の練習中ずっと吉田って呼んでやるからな?