白黒的絡繰機譚

犬歯のかさぶた

噛んでくるユガミ検事

「いっ……たぁ!」

歯の先から、柔い感触が伝わってくる。それとほぼ同時に声と、脳天に軽い衝撃。

「なにすんでェ」
「そりゃこっちのセリフだよ! 何度言ったら分かるんですか?! 噛むなって!」

俺の腕を剥がして振り向いた法介が睨んでいる。怒っちゃいるんだろうが、尻が俺の膝の上から動かねえとこを見ると、まあそれほどでもないんだろう。

「眼の前におめぇさんの旨そうな項があるのが悪ィ」
「はぁ?! アンタが無理やり座らせたんだろうが」
「文句言わず抵抗もせずだったんだから、合意だろ。無理やりじゃねェ」

ちっせぇ身体をもう一度捕まえる。肩に鼻を埋めると、また噛まれると思ったのか竦んでやがる。

「次噛んだら叩き出しますよ」
「今日はもうしねェよ。……おめぇさん、そんなだから俺に噛まれるンだぜ」
「なんでオレに全部責任あるみたいなことばっかり言うんだよアンタは」

はー、と長い溜息を吐かれる。

「噛むって行為は愛情表現の一種だからなァ」
「もっと穏便な手段があるだろ……」

そりゃ確かにそうだ。俺達は相互に意思疎通の可能な生物で、それを阻まれる環境にいるわけでもない。

「穏便な手段じゃモノ足りねェんだよ。……噛み傷が残りゃ、朝それを隠しつつ服を着る度に、昼ふと痂が剥げた時に俺を思い出してくれンだろ?」

噛み癖にゃ色んな理由が考えられているが、俺の場合は独占欲が強ェんだろう。欠片すら残さず腹の中に収めたい歪みきった欲望を、こうやって発散している自覚がある。
恐らくコイツは、俺の言ったことを半分は冗談だと思っているに違ェねえ。だがなあ法介、おめぇさんには分かるだろう、嘘っぱちじゃねえってことは。

「とんでもない人に好かれてしまった……」
「今更だなァ。……法介」

つけたばかりの痕を舌でなぞる。こうして痛みを与えても、俺を拒絶しきらねェおめぇさんが悪い。

「あ……っ、夕神、さん」

痕だけじゃァなく、首筋から耳へ。それだけのことで、強張っていた身体はもう俺にもたれ掛からねェといけなくなっちまう。
ぐるぐると、歪んだ欲望が首をもたげる。噛めねェなら、食っちまおう。

「こんな俺を、好きだろォ?」

返事は分かっているので、噛まずに塞いでおこう。