白黒的絡繰機譚

最高に甘かった、とのこと

VDネタ

「……忘れてました」

顔を伏せて絞り出したのはその一言。自白で有罪確定といったところか。

「だろうなァ」

降ってきたのは、覚悟していたよりずっと軽い声。予想外のそれに思わず顔を上げると、普段どおりの仏頂面がそこにあった。

「――そもそも、だ。俺ァああいう浮ついた催しは嫌ェでな」
「はあ」

それもそうか。今日――2月14日に貰えた貰えないだのに一喜一憂する人には見えない。あとチョコより饅頭あげた方が多分喜ぶ。

「まあ、おめぇさんが用意してたンなら、勿論ありがたく貰いはしただろうが……ココネに成の字とその娘やらなんやら……とにかくウンザリするくらいおめぇさんが覚えてない、忘れてると聞いてもねェのに伝えてくるンでな……」
「それに関しては……大変申し訳なく……」

ああ、だから最近会話に「チョコ」「ハート」「14日」なんて単語が多かったのか。成歩堂さんも希月さんもみぬきちゃんも、能力の使い所はそこじゃないだろ。ここまで露骨にされてなんにも反応しないオレが悪いのかな、この場合。

「謝る必要はねェ。大変なのはおめぇさんだぜ?」
「オレ?」

ああ、もしかしてオレの方があの二人に忘れてた慰謝料上乗せでチョコをあげなきゃいけないってことだろうか。今どき性別でどうこう言う気はないけれど、ホワイトデーもオレがあげなきゃいけないんだから理不尽だよな。ギブアンドテイクはないのかオレに。

「忘れてたなら、慌てて何を用意して渡したのか、それを根掘り葉掘り聞かれるに決まってらァ。女ってのはそういう話がチョコより好きなんだからよ」
「……買いに行きます? それとも作ります?」

どっちにしろ証拠写真と後日の証言という名のフォローをつければ大丈夫だろう。多分。

「昔っから、こういう時の穴埋めなんざ決まってるだろォ?」
「はい?」
「勿論、ココネ達にゃ別に用意してやれよ」

そうして押し倒されるオレと、乗っかる検事。
この人、明日のオレの身を心配してなんかいないじゃないか!