白黒的絡繰機譚

二人寝

「えーと、ユガ……夕神さん。オレやっぱりソファーじゃ駄目です?」

ぎろり、と裁判の時のように夕神さんの目が光る。普段と違ってオレが見下ろす形でも、怖いものは怖いと思った。

「いい加減観念しやがれ」
「寝る場所くらいで観念も何も……あるかも」

夕神さんの部屋の、広いベッド。そもそも夕神さんは縦も横も厚みもあるけれど、それでも余るサイズだ。それの真ん中より端に寄って、空いた側に手招きされているのが今。通常男二人が同じベッドに入ったって何も起こらないけれど、オレと夕神さんはそうじゃない。

「なんにもしやしねえって。……今夜はな」

ニヤリ、と夕神さんが笑う。じゃあ起きたらなんかされるんですか、と言いそうになったけれど飲み込む。絶対に墓穴を掘ることになると直感が告げている。

「……分かりました」

意を決してベッドに潜り込む。まだひんやりとしたシーツが、風呂から出てあまり経っていない肌を少し固くする。

「もっとこっちに来な」
「わっ」

強い力で抱き寄せられる。額が固いものにぶつかった。……胸板ってこういうのを指すんだろうな。胸も腕も掌も全部、オレとは違う。ぎゅう、と目をつぶると胸板だけじゃなく背中に回ってる腕の感触まで鮮明になってしまって、顔に血が集まってるのが分かる。

「緊張してンのか?」
「そりゃ……まあ、そうですね」

だって、こんなことは初めてなんだ。
アンタは多分……そうじゃないんだろうけど。7年前は和風イケメン!って感じでしたよって希月さん言ってたし。

「そうか。なら早いとこ慣れてくれ。俺の理性ってヤツもいつまで保つか分かったもんじゃねェからなァ」

無理強いは趣味じゃねェんだ、と小さな声が聞こえた。ユガミなんて言われてた癖に、変に律儀だよな。

「頑張ります……?」
「頼むぜェ。しっかしおめぇさん抱き心地がイイねェ……。こりゃよく寝れそうだ」
「しっかり寝て、身体休めてくださいよ。忙しいんでしょ」
「そこまででもねェよ……。……おやすみ、法介……」
「おやすみなさい、夕神さん」

目を閉じる。段々身体から力が抜けていくのが分かる。こんなことは初めてなのに、なんだか、安心する。これがきっと、この人を好きってことなんだと、思う。