白黒的絡繰機譚

風邪を引くより熱が出る

こたつで寝ると風邪を引く。
言ってることは正しいと思う。実際寝落ちて目覚めてまずくしゃみをした、なんてことは何度もあった。その度にちゃんと布団で寝ればよかったと後悔はするけれども、眠気と暖かさに自力で勝つのはどうにも難しい。だから、

「……」

こたつじゃなくてベッドの上のに包まれている今、それが自発行動の結果じゃないのは、わかる。きっと風呂から上がったらオレがこたつで寝てたから、溜息吐きつつここまで運んでくれたんだろう。そういう人だから。ここまではいい。でも、どうしてこの人まで一緒のベッドで寝てるんだ。しかもぎっちりオレを抱きしめて。

「……ユガミ検事?」

とりあえず呼んでみるけど、返事はない。響くのは呼吸音だけだ。声を上げたら流石に起きてくれるだろうけど、そこまでして離して欲しいわけじゃない。ただ単に、オレが勝手に、動揺してるだけで。
――当たり前だけど、家主も待たずに寝てしまうつもりなんてなかったんだ。でも初めて部屋に呼んでもらって、多少お酒も入って、そこにじんわりとした暖かさも加わったら瞼が重くなってしまった。呆れられただろうし、迷惑もかけたし、ここまで来た関係性が後退してしまったかもしれない。……いや、男同士でこれ以上どうこうもならないだろうけど。なのに、今のこの状況は一体何なんだ?!
……心音が早く、大きくなっていくのを感じる。距離なんてゼロだから、伝わって、起きてしまうかもしれない。そうしたら、この人は、

「――ぁ、泥の字ィ……?」

逃げたい。でも、身じろぎすら出来ない。

「おめぇさん……むぼうび、だなぁ……」

腕の拘束が緩む。ようやく、薄暗闇に顔が見える。初めて見る、少し柔らかい寝起きの顔だ。普段鋭い眼光の目も、流石に今はそういう感じはしない。資料の中にあった昔の写真と地続きであると分かる、そんな目に見える。
それが、そのまま、近づいて、

「……?!」

少しかさついた、何かが、重なって。いや、何かなんて、分かっている。分かっている、けども!

「はは、は……。……。……ん、あ……?!」

あっという間にユガミ検事の表情が固くなる。オレはまだ動けない。声も出せそうにない。

「……泥の字」
「……」
「その……だな……。いや、言い訳なんざァ、しても仕方ねェ。さっきのは悪かった……が」
「が」

やっと出てきたのは掠れた一文字だけ。が、の続きは一体何が出るんだ。

「例え寝ぼけてたってなァ……酔狂でやることじゃねェ。つまり、俺ァ……」

ちょ、ちょっと、待ってください?!
さっきより今が、今の状況こそ、一体何なんだ?!