白黒的絡繰機譚

本当と嘘

「ほっせぇよなぁ。ちゃんと食ってるか?」
「食べてるよ。少なくとも料理出来ない馬乃介よりはまともにね」
「ぐっ……。俺だってちゃんと食ってるさ」
「ホントぉ? だったら何でメールしたのさ」

予定の有無を確かめて、そしたらその次にはもう『来ないか』なんて。
作って食べて食べられる。パターン化されたまるでそう、恋人みたいな行動。
本当はそんな甘さなんてどこにもないのに、コイツだけは気がつかない。気がつかせてないからだけど。

「……良いだろ、別に」
「良いけどね、別に」

背中に貼りつく体温が嫌だ。
そんな体勢になれてしまう体格差が嫌だ。
いくら食べても、いくら力仕事をこなしても変わらない身体が嫌だ。
全部が全部、俺の嫌なものだ。

「草太」

抱きしめてくる腕、耳にかかる息、切羽詰まった様な声。
俺は女じゃ無いのに、どうしてコイツにこんな風にされるんだろう。この手段を選んだのは確かに俺だけど、こんな風にされたかった訳じゃない。
俺は、お前に守って欲しい訳でも何でも無いんだから。

「……何? 馬乃介」

その癖、分かっているのに分かっていないフリをして、まるで初心な女の様に振る舞う。
矛盾してる。そんなのは知ってる。でも嫌だ。今すぐ終わらせてしまいたい。出来ないのは知っている。
抱きしめてくる腕という枷が外せるのは、もう少し先。
それまでは筋肉も脂肪もつかないこの細いだけの身体で、まるで女の様に。

「分かってんだろ……」
「……」
「草太」
「……ベッドが、いい。床なんてムリムリ」

ひょいと抱えられる俺の身体。体格差は、やっぱり嫌になる。

「わ、おちる……っ」

それなのに、落とされない様にシャツを掴んで、やっぱり女みたい。
矛盾、矛盾、矛盾ばかり。
きっと本当は、

「……馬乃介、なんて」

言葉と思考のどちらかが、きっと嘘?
そんな事はないと言い切れないほど、俺の身体は矛盾だらけ。

「? 何だよ」
「何でもないよ。ね、馬乃介早くいこう?」

今だけはそれを忘れて、本当か嘘かも分からなくなった言葉を口にして、欲しいのか欲しくないのか分からない羨ましい身体に縋る。それだけはきっと、本当。