白黒的絡繰機譚

錯乱ピエロと気狂いナイト

「ずっと探してたんだ」

そう言ったアイツの顔が歪んでいる事に、どうして気がつけなかったのか。
――まあ、見たくなんかなかったし。

「見てくれよ。お前を守れる男になったぜ」

SPなんて職業にどうして就いたのか、なんて考えなきゃ良かった。
――考えたくも、なかったし。考えないことなんて、出来なかったけど。

「草太、俺にはお前しかいないんだよ。お前さえいれば良い。リーダーの地位だって……お前の為さ。なぁ、リーダーになったらサーカスなんて辞めてくれるか?」

酷く執着するリーダーの地位の理由は俺だった。

「辞めてどうしろって?草太、何回も言ったじゃねぇか。俺にはお前しかいないんだぜ?って事はだ、お前にも俺しかいないって事だろ」

意味が分からない。理解できない。
俺にはお前なんか要らないのに。俺には了賢さんがいる。

「なぁ、そうだろ。俺がお前の事一番分かってるからな。だから、お前を守ってやる。もう逃げる必要なんてない。俺と一緒にいれば安全なんだ」

刻みつけられるような声と言葉は、俺の知ってる馬鹿な馬乃介のものじゃない。誰だこれは?
いっそ万才やマリーに見つかってしまった方がマシなんじゃないか、と錯覚させる様な危険な声だ。
少しずつ削られていく理性と思考の中で計画を練る。万才から、マリーから、そして馬乃介から逃げ切る為の計画を。

「……そうか!そうすりゃ外城からリーダーの地位を奪えるな!草太、ありがとな」

そう言って笑った顔だけが昔と同じだ。
掌の下で呟いたさよならは、周りが見えないコイツにはきっと聞こえない。

「わりぃ、失敗しちまって……。でも、大丈夫だからな草太」

留置所に行って、ちょっとは頭が冷えたかと思えば――。

「お前もこっちに、来てくれるだろ?」

ああ、本当に今度こそ俺の平穏と復讐の為にさようならだ馬乃介。