白黒的絡繰機譚

忠の爪

どうしてこんなことになっているのか。

「あの……」

ガチガチに固まっているオレと違い、向かいにどっかり座っているユガミ検事を見上げる。唇の片端を持ち上げて笑う様は、言っちゃ悪いが悪人面だ。

「なんでェ、泥の字」
「オレはいつまでこうしていれば……?」
「そらァ、コイツが満足するまでよ」

しゃくった顎の先はオレの頭の上。いつもはユガミ検事の肩に乗っている鷹、ギンはなぜかオレの頭の上にいた。重くはないけれど、あの鋭い爪がもしも……と思うと気が休まらない。

「それっていつ……」
「知らねえなァ。おめぇさん暇してンだろ? ならいつになろうとイイじゃねェか」
「そりゃ検事局に比べたら少し……かなり……暇ですけども」

だからといって、この爪の恐怖と睨めつけるような視線に晒されてもいい訳じゃない。というか、この人仕事はいいのか仕事は。
そりゃ検事局はいつだって激務だって聞くから、こうやって休憩くらいとった方が良いんだろうけども。それとこれとは、全然別の問題のはずだ。

「なら、おめぇさんと刀を交えるのは当分先かねェ」

少しだけ、ユガミ検事の表情が変わる。これは、なんだろう――そうだ、寂しそうな顔に似ている。……いや、違うか。会えなくて寂しかった、なんて間柄でもないだろうオレたちは。
でも、久々に顔を見たのは事実だ。ちょっとした雑務で来た検事局で、突然ギンに頭に乗られて迂闊に動けなくなったオレは、立ち尽くすわけにもいかないのでこうして今ユガミ検事の執務室にいる。でも、どうしてギンはオレに飛んできて、こうしてずっと乗っているんだろう。攻撃された覚えはあれど、懐かれるようなことなんてなかったはずだ。
ギンにも、ユガミ検事にも。なのに、どうしてだろう。

「全く、優秀なヤツだよコイツは」

ユガミ検事が立ち上がって、オレの頭に手をのばす。思わず目をつぶってしまった間に羽音がして、軽くなる。

「気に入ってンのさ。暇なら、顔見せに来な。俺もギンも歓迎するぜ」

目を開けると至近距離のユガミ検事がそう言って酷く嬉しそうな顔をしたので、オレは思わず頷いてしまった。




「――だからって、毎度なんでこうなるんですかね」
「言っただろォ?気に入ってンのさ」

あれから、どれくらい経っただろう。ギンに乗られるのも、この人の執務室に入るのも、向き合って座るのも、何度目だか分からない。
鋭い爪も、悪人面も、慣れたけど慣れない、どっちつかずの現状だけれど、

「泥の字」

オレを呼ぶ声とか、その表情とか。
きっと、ギンはこの為にオレの頭の上にいるんだろう。……勿論、オレも。