白黒的絡繰機譚

君と何時までも

どうして、こんな風になったんだろうね?
僕はただ、君と何時までも友人でありたかったよ。
ずっとそう信じてきたように、かけがえのない友人でいたかった。
でもきっと、それはもう一生無理なんだろうね。

「……」

自分でも馬鹿馬鹿しいと思うほど、意味無い行為。
鳴らないだろうと思っている携帯から、なんとなく目が離せないままの僕。
来て欲しいと願っても来る筈のない連絡を待ってるなんて、まるであの時に戻ったみたいだ。

「ホント……あの時に戻ったみたい」

あの時とは、何もかもが違うのだけれど、何故か、何となくそう感じる。

「……」

気まぐれに押すのは側面のボタン。
閉じた携帯が小さな画面に映すのは今日の日付だけで、他には何にもない。
間違っても「着信あり」や「新着メールあり」なんて文字は出てこない。
空しいね、分かっては勿論いるんだけど。
真宵ちゃん達と会わなければ、君からの連絡を待つ以外にすることなんかない。
待つくらいなら僕から連絡すれば良い、ってことは勿論、分かっているんだけど。

「御剣に……」

メールも、電話も、どっちも最初の一言が浮かばない。
ううん、正確には「浮かぶんだけど、言えない。打てない」だ。
別に何を言おうと、何を打とうと、御剣は気にしないんだろうけど……。
なんていうのかな、僕が、それじゃ駄目なんだよ。
多分、御剣にそう言っても分かってなんてもらえないだろうね。

「メール……。いや、電話……。うーん……」

終わらない無駄な、意味のない考え。
ちょっと前までは、こんなこと考えずに適当に連絡が出来たのに!
これって全部君の所為だよ、御剣。br> 君があんな真剣な顔で告白してくるから悪いんだ。
……そりゃあ、それにOK出しちゃった僕も僕なんだけど……。でも、OKしてから御剣、変に大胆になったっていうかなんというか……。
なんかちょっと、変わったなぁ、って思うんだ。
根本は変わんないんだけど、どこか、なんとなく。多分、少し気が抜けたんだと僕は思ってる。
溜めこんでどんどん悪い方向に行きやすいからね、君は。

「あー……駄目だ。僕、駄目だ」

もう一度携帯に目をやる。無言。
早く鳴れば良いのにさ、そんな気配は微塵も無い。
鳴らないから悪いんだ。
さっきからホント、御剣のことしか考えてない。全部、御剣の所為だ。

……御剣は変わったけど、僕はきっと変わって無いんだろう。
昔から、多分御剣のことばっかり考えてた。
何時からこういう風な気持ちで考える様になったのかは、よく分からないけど。
それでも、ちょっと前までは、ずっと君と友人でいたいと思ってた。
笑っちゃうけど、結構本気でそう思ってたんだよ。
どうしてこんなことになってるんだろ?
よく、分かんないな。

「……!!」

静かな部屋を満たすのは、ずっと待ってた着信音。
小さな画面に映るのは、ずっと待ってた登録名。
変に震えそうな手で携帯を持って、開いて、深呼吸をする。
……ちょっとでも動揺しているとこなんて、知られたくないだろう?

「もしもし御剣?ねぇ――」

『君からの連絡を、ずっと待ってたんだよ』
……なんて言ったら、眉間にしわが寄っているのは確定として、どんな顔するんだろうね!
――分かってるよ、もう戻れない。
小学生の頃にも、大学生の頃にも、弁護士になったばかりの頃にも、どこにも戻れない。
僕も君も、こうなってしまったんだから。だから、もう後ろなんて気にせずに進もうか。
君と二人で、何時までも。道が途切れる、その日まで、ね?