白黒的絡繰機譚

「もしこの部屋を出たら、同行するように」

ロビンフッド×ビリー要素有り。

目を開ける。ここには外の様子の分かる窓なんかないが、感覚で大体の時間は分かる。まだ、真夜中だ。まだシーツに包まっていたい気持ちと、一服したい欲求を天秤にかければ、後者へ傾いた。適当に服を着て、喫煙所へと歩き出す。勿論時間が時間なので、人気はない。

「――おや、君もこんな時間に一服かい」

が、喫煙所には先客がいた。最近召喚されたばかりのアーチャー、ウィリアム・テル。よく間違えられるので名前を覚えていたその英霊は、若造のオレとは似ても似つかず寧ろ記憶の彼方の裏側に近い。

「目が覚めちまうとどうも吸いたくなっちまうんですわ」
「わしもさ。吸ったら余計目が冴えちまうのは分かっちゃいるんだがねえ……」

自前の煙草に火をつけて吸い込む。部屋に戻ったら丸まって寝ていたアイツは起きているのかねえ、とぼんやり思う。まあ十中八九寝ているだろうが。どちらにせよ、オレだけこうして喫煙所に行ったことに唇を尖らせる未来があるのは変わらない。とは言っても、アイツは受動喫煙ばかりで自分から咥えることなんてほぼないんだが。

「さて、わしは戻るとするか」

名残惜しそうに最後の一息を吸いきって狩人が立ち上がる。こんな時間なのだし、別にもう一本でも二本でも吸っていきゃいいと思うんだが。

「君も、あまり長居はせんようにな。――起きると一人というのは、中々嫌らしいぞ」
「はあ。……ん?え、はあ?!」

へっへ、と笑うになにも言い返せず、灰の落ちそうになった煙草を慌てて灰皿に押し付ける。今すぐ鏡を確認したいが、生憎ここにそんなものはない。しかし、流石は必中の狩人と言ったところか……。

「――あ」

喫煙所の扉をくぐって行った後ろ姿になにかが蠢く。曇りガラスで曖昧なそれは、

「唯の経験談じゃねえか……」

どこかの神様のように白い、一匹の蛇だった。