白黒的絡繰機譚

ご休憩延長中

心地よい疲労感を抱えて長い廊下を歩く。連日マスターにやれ羽根が欲しいだ、やれ骨が欲しいだと連れ回されるのは、中々悪くない。なにせ自分は唯の猟師なので、そういう仕事が向いているのだ。息子よりは大きいが、大人ではないマスターは申し訳なさそうにしていたが、この外の見えない建物の中でじっとしているよりよっぽどいい。――それに、最近は下手に部屋にいると少々面倒なことになる。
割り当てられた自室までの通り道にある、画一的な扉の一つに目を向ける。簡素なメッセージボードがあるのを確認して、思わず溜息を吐いた。

「わしはどれも同じだと思うんだがねえ」

自室の扉を開けて、無人のはずのベッドが膨らんでいる事実にまた溜息を吐いた。
『休憩中にて不在 患者はサーヴァントルーム246へ』
先程見たばかりのメッセージボードの字が頭をよぎる。サーヴァントルーム246とは、つまりはこの部屋だ。
――カルデアとやらに召喚されて暫くしてから、どこぞの異聞帯で同じ陣営だったという男が頻繁に自分のベッドを占領するようになった。彼の名前はアスクレピオスといい、そんな縁でもなければお近づきになることもない神の一人だ。

「ふう……」

上着と得物を収めて、起きる様子のないアスクレピオスを見る。曰く「このベッドが一番質の良い睡眠が取れる」とのことだが、ここのベッドに個体差なぞないはずだ。ならば交換するかと聞けば、酷く機嫌を損ねたのも記憶に新しい。

「なんでわしなのかねえ」

お互い、縁はあるといえど今存在する自分達とは違うモノだ。美男子と伝わるアポロンの息子なだけあって顔も整っているし、何より若い。それなのに、この老体に――。

「――あ、ああ。帰っていた、のか」

ぱちり、とアスクレピオスが目を開ける。

「邪魔したかね」
「僕は元々この時間に起きるつもりだった。仕事がまだあるからな。ああ、だが」

医神はどうしたことか、唯の猟師にご執心らしい。

「戻る前に、今日の分の営みを済ませておこう」

薄い唇を押し付けられながら、老体に鞭打って神の身体に覆い被さった。