白黒的絡繰機譚

寝息の合間に

未遂程度に性的要素有り

「最近なーんか、頭痛くてさ……」

そんなスキル持ってないのにね?と笑った顔は、確かに少し無理しているようだった。
まあ医務室行ったらどうです、と促したがどうにも乗り気じゃないようで。あそこにゃあの看護婦サンがいるし、気持ちはわからなくはねぇけども、こちとら結構心配してるんですけどね。
なんとかするよ、という言葉を背に、オレはルーチンのクエストへ。丁度森林がフィールドだ、ちょっと薬草でも探してみますか。サーヴァントの頭痛なんていうものに、どこまで効くのかわかったもんじゃねぇですけど。





「帰りましたよ……っとぉ?」

そんなこんなでクエストから帰還して、部屋の扉を開けた瞬間、オレは盛大に顔をしかめた。
何だこの匂い。甘いような、すっとするような、それでいて安らぐような……とにかく、訳のわかんねぇ匂いだ。それがまだうっすらならいいんだが、煮詰めましたっていうような濃さだからキッツいのなんの……。

「おい、ビリーこれ一体……」

部屋に入って見渡すと、ビリーはベッドの上で寝ていた。なんでこんな匂いの中寝れるんだ。とりあえずオレの方が頭痛になりそうな匂いの原因を探す。……お、多分これだな。テーブルの上に置かれたランプ。確かアロマオイル?だとかを楽しむための物だが……そんなもの、男二人の部屋にあったわけもない。オイルと一緒に誰かから借りてきたのか。ともかく、その電源を落として、換気扇をつける。これでそのうち匂いもどっかいくだろ。
……光を失ったアロマランプの横に小瓶があるのに気がついた。この瓶は見たことがある。確か。あ。

「おま……」

そうだ、これはパラケルススのものだ。間違いない。この野郎、結局医務室行かずに、その辺フラフラしてた怪しい錬金術師にこれを貰って焚いたんだな……?で、一体どういう効能だか知らないが、対魔力のないコイツはストンと夢の中。オレは大丈夫だったってわけか。ったく……。

「おい、起きろ」
「……」
「おい、ビリー」

少し乱暴に肩を揺すってみるが、身じろぎ一つしやしない。頬を叩いても、耳に息を吹きかけてみても(コイツは結構耳が弱い)同じだ。寝息が聞こえるだけで、目が覚めそうな気配はない。

「……」

別に、コイツが寝こけてたって、ちょっと静かなだけで困ることは特にない。ないんだが。
――多分オレは、疲れていたんだと思う。そうだと思いたい。または魔が差したとか。つまりフツーじゃなかった。ぎし、とベッドを軋ませてほっそい身体に跨る。
ごくり、と唾を飲み込んで、そっとビリーのネクタイの結び目に指をかけた。元々少し緩められていたそれは、するりと抜けた。そのままベストとシャツの前を開けていく。見慣れた、白い肌だ。ゆっくりした呼吸に合わせて上下している。
ネクタイの結び目があった辺り――鎖骨の間に、そっと触れる。そこから少し下って、胸へ。外気に触れたからか、白い中ピンクのそこが、ちょっとばかし上を向いていた。摘むように、触れる。

「……んぅ」
「!」
「……」

慌てて手を離すが、目を開ける気配はない。もう一度触れる。今度は特に声を出す様子もない。そのままいつものように、弄っていく。

(何してんだ、オレ)

馬鹿なんて言葉じゃ収まらないことをしている自覚はある。それでも、一度始めてしまったものを止めることができなくて、そのまま両方を、いや胸全体を揉むように手が動いていく。

「あふ…あ、ん……っ」

……本当は起きてんじゃねぇのか?そう思いはするが、止めるとすぐ安らかな寝息に変わってしまう。早く起きて欲しいような、このままでいて欲しいような。
それ以上のことをするわけでもなく、ただひたすらそこだけを愛撫しているオレは……ホント、なんなんだ。でもしっかり息は荒くなっていて、この状況を楽しんでることだけは、分かる。
つん、と上向いた様子は、サーヴァントの身体にそんなことはないと分かっているのに、最初の頃より柔らかく、肉がついたような気がする。もしそうだとしたら、そうしてしまったのはオレなわけで。

「ビリー……」

ああ、くそ、ホント楽しいんだなオレは。完全に寝てるコイツが、それでも反応するのが。気のせいだとしても、オレの手でどうにかなっていることが。
質が悪い。征服欲、なんてそんなもの縁がないと信じていたのに。
ただひたすら、手を、指を動かして。ぷっくり腫れたようになったそこを、口に含んだりして。
一体どれだけ、そうしていただろう。

「うぅ……」

――ふと、それまでピクリとも動かなかった睫毛が揺れる。やばい、これは……!

「……!」

慌ててシャツとベストの前をとめて(ネクタイは結べねぇから無視する)一応宝具を被って、部屋から飛び出した。冷水でもかぶればちょっとは……多分、落ち着くと信じて。





「……ろびん?」

帰ってきていたような、気がしたんだけど。なんかとても、触れたい気がするのだけど……?
パラケルススから貰ったアロマオイルの香りはタイマーが切れたのかとっくに薄くなっていて、代わりに少し――タバコの匂いが、した。