白黒的絡繰機譚

要らない皮膜

「ここでくらい楽にしたらどうです?」

その言葉に、僕は首を傾げた。帽子を脱いで、上着を脱いで、さてこれ以上どうしろと言うんだろう。

「いや、なんでそんな『何言ってるか分かりません』みたいな顔するんだ」
「君、もしかしてエスパー?」
「誰だって分かるだろ。ほら、それだよ」

それ。指し示されたのは僕の手の先。普段と変わりがないけれど、これが一体どうしたっていうんだろう。
……あ。

「手袋かあ」
「……オタク、まじで気がついてなかったのかよ」

あからさまな溜息を吐かれたけど、うん、何も言い返せない。君の――ロビンの言うことは、最もだ。
ここ、カルデアに召喚されているのは勿論戦うためとはいえ、今はただ、割り当てられた部屋でごろごろと待機しているだけ。僕の部屋じゃなくて、ロビンの部屋だけどさ。
そこでこの、馬や銃を扱うための革手袋を取って楽にしたらどうだ、と提案されるのは最もだ。それが特に――踏み込んだ間柄であるならば。
あっちはもう、部屋主であることもあって、外套どころかその下も脱いでタンクトップ姿だしね。ベストにきっちり締めたネクタイまで装備の僕とは大違いだ。

「外すって発想がなかったな……」

生きていた頃、僕には外す暇がなかった。それくらい銃を抜かなければならなくて。誰かが横にいたら、尚更だ。例え相手が素手であったとしても。

「オタク、顔に似合わず考えが物騒だよな」
「サーヴァントなんてそんなもんでしょ。でも……うん、そうだね。外すよ」

そう言って左中指を引っ張る。もしかして貼り付いてたりしないだろうな、と疑っていたけどそんなことはなく、するりと引っかかりもなく外せた。
男らしいとは言い難い、僕の小さな手だ。

「なんだか落ち着かないな」

まるで身体を初めて手に入れたみたいに、握っては開くことを繰り返す。

「落ち着いてくださいよ」
「たかが手袋取っただけだってのにね」

自分でもおかしくなる。どれだけ僕は硝煙臭いんだか。

「そうじゃない」

「僕の左手に、ロビンの手が重なる。

「オレの前では、必要ないだろ」

じんわりと、ロビンの体温が伝わってくる。革越しじゃない、直のそれは酷く温かくて、気持ちがいい。
……そうだ、他人っていうのは、こういう風に触れていいものだ。忘れてたな、簡単なことなのに。

「うん、君の前ではいらないね」

例え今の僕だけでも、手袋を外して誰かと繋ぐ。それが出来るだなんて、ビリー・ザ・キッドはなんて幸せなんだろう!