白黒的絡繰機譚

またあとで

ぱちぱちと、焚き火が燃えているのを耳に感じる。月は明るくないけれど、少し遠くに明かりがあることを認識するだけで、呼吸はし易い。真っ暗は、もうごめんだからね。
ここはローマの特異点の森の中。言葉にはし辛いけれど、アメリカのそれとは違うというのが肌で分かる。
本当は一日もかからずに終わるはずだったレイシフトは、予想外の襲撃でずれにずれて、結局夜をこんなところで越すことに。僕達サーヴァントはともかく、マスターにはちゃんと休息を取ってもらわないとね。日中があんな感じだったから、僕は見張り役をしている。単独行動スキルもあるから、マスターの安眠くらいは守れるはずだ。

「――っと」
「あれ、こっち来るんだ」

もたれかかっていた木の上から降りてきたのは、ロビン。僕と一緒に見張り役をしている。マスターの側は勿論マシュだ。

「そりゃ働いてきましたからね」
「ああ、そうか。ご苦労様」

そうだ、ロビンにはトラップがある。わざわざ神経を尖らせなくたって、ワイヤー1つで分かるわけだ。ならこっち側にもやって欲しいな――っていうのは駄目か、うん。
ロビンは僕の隣、ほとんど密着するような位置に座ると、外套をひざ掛け代わりにこっちにかけてきた。君ってそういうのさらっとするよね。

「君もあっちで寝たら?」
「いやいや……流石にオタク一人にしてそれはできないだろ」
「自分の分はちゃんとやってるんだし、気にしないけど。というか、近くない?」
「今更じゃねぇか?」

まあ、うん、そうか。今更隣り合うくらいでどうこうって仲でもないね。でも、ここは外で、間近ってわけじゃないけどマスター達もいるんだけどな。

「……もしかして、なんか意識しました?」
「なんでそうなるのさ、馬鹿」
「オレはちょっとしましたけど」
「なっ……本当に馬鹿だろ、君」
「かもなぁ」

……そういう風に言われると、君の体温とか腕の感触とか、なんか意識しちゃうじゃないか。君のそういうものを感じるのは、いつもこんな時間で。数日前の記憶が、断片的に降ってくる。

「……」
「……早く帰りたいですね」
「そう、だね」

夜はまだまだ長くて、君は動く気配がなくて、周りに敵の気配もない。
ただなんとも言えないこの気持ちをどうにかしたくて、僕は外套の下にある君の手に指を絡ませた。