白黒的絡繰機譚

きんえんのちかみち

「だって無理やり口にねじ込まれるわけでもないし、サーヴァントが受動喫煙を気にしても、ねぇ?」

いつも通り、酒をくすねてカードを切る。自室から持ってきた灰皿をテーブルに置いて、箱を取り出して一本どうですか、と勧めたら断られた。そういえば、と思い返してみれば、コイツはオレが吸う横にいても何も言わなかったが、自分から口にすることはなかった――と今更ながら気がついて尋ねてみたら返ってきたのは、上記のセリフと曖昧な笑顔だった。

「いや……言ってくれりゃあ、こっちだって吸いませんよ。吸わなきゃ死ぬってわけでもなし」
「その割には、結構な本数吸ってるよね」

ぐ、とこっちが言葉に詰まってる間に、あちらさんはカードを2枚交換する。そして増えるチップ代わりの空薬莢。

「ま、今更だろ?気にせずガンガン吸えばいいよ」
「目が笑ってねーですよ」
「ええ?そんな筈ないじゃないか。さて、君はどうするの?」

手元のカードと、空薬莢の数を見比べる。強気の賭けは、ブラフかどうか。駆け引きは得意な方だと思っていたんだが、コイツ相手にそれが上手くいった例がない。
とにかく、こちらも同額を積み重ねる。

「降りるかと思ったのに……。ん、いいよ。勝負しよっか」
「降りてほしかったんで?」
「どうかな。……そら」

ぱさ、と広げられる5枚のカード。……ああ、くそ。

「はいはい、オレの負けオレの負け!」
「あはは、残念だったね」

スリーカード。強くはないが、いけそうな気がしたんだが……まさか数字の差で負けるとは思わなかった。
じゃらりと総取りされれば、こちらにはもう何もない。

「次は取り返しますからね」
「その台詞、何回聞いたかな。……あ、そうだ」

散らばったカードをまとめていると、ビリーがそっと手を出した。

「なんです?」
「たまには、勝った方が何か貰ってもいいよねって」
「うわ……」
「嫌そうな顔しないでよ。別に大したことじゃないよ。……ほら、これだけでいいからさ」

そう言ってビリーが手に取ったのは、オレのタバコの箱。

「今日はもう終わり。次やる時くらいまで、禁煙しなよ」
「はあ?」
「あはは、もし口寂しかったらキスしてあげてもいいよ?」
「オタクねぇ……」
「冗談冗談。でも禁煙は本当だから」

ジャケットの内側に箱をしまうと、もう寝るとばかりに立ち上がる。

「じゃあおやすみ……わっ」

――その時、どうしてそんなことをしたのか、正直自分でもよくわからない。考えるより先に身体が動いた。
口寂しくなんかないはずなのに、オレは。

「……なっ、ばっ、馬鹿じゃないの?!」

真っ赤になった顔に、不覚にもどこかが跳ねた。つまりそういうことで。

「口寂しくなったら、また、お願いしますよ」
「馬鹿!!」

一瞬殴られるかと思ったがそんなことはなく、真っ赤な顔のまま踵を返していなくなった。
オレは当分動けずにいて、ただたださっきの感触を思い返していた。









「――煙草の本数減ったよね」
「そりゃあ煙草よりもっと、口にしたいものがあるからですよ」
「君ってほんと……馬鹿だよね」

そう呟いてシーツに潜った身体を抱きしめる。
……そのうち煙草なんて本当に要らなくなる、かもしれない、なんて思いながら。