白黒的絡繰機譚

スキンシップLv1

ビリーくんが初心だったらネタ

詳細は省くが、この度少年悪漢王を口説き落とした。
……いや、オレ自身もどうしてそうなった?とは思ってるんだ。思ってるんだが、まあやってしまった。ナンパで村娘を口説くのとは違う駆け引きを新鮮に思ってしまったのか、横にいても苦じゃないどころか楽しいと思ってしまったからなのか……正直、何が決め手だったのかはよく分からない。確かに最後は酒の勢いだった。だが、酒が入っていても冗談と軽口と本気の区別はつく程度の付き合いだ、オレの口から出て、あちらから返事があった。これが全て。
まあだからといって、今までが劇的に変わるわけでもない。精々、どちらかの部屋にいる時にすることが変わるだけだ。人前?絶対しねぇっての。あっちだってそう思ってるさ。

「……アンタ、なんて顔してるんだよ」

で、現在地はオレの部屋。扉の鍵を閉めて、一歩先にいたふわっふわの金髪にそっと触れて、反転させて、頬にキスをした。……なんで唇じゃないかって?いや、いきなり野郎の唇はちょっとハードル高いっていうか。
そしたらどうなったと思う?少年悪漢王サンの顔を見ろよ。真っ赤だよ、真っ赤。目を見開いて硬直、見事なもんだ。アンタ、アメリカ人だよな?こんなん知り合いなら余裕の挨拶みたいなもんじゃねぇの……?

「だって、ロビンが」
「いや、オレのせいにされても……こんなん慣れっこだろ」
「な、なんでそうなるの!」

え、なんでオレ、キレられてんの?顔真っ赤だから全く怖くねぇけどさ。

「……めてなんだよ」
「はい?」
「初めてなんだよ!」
「は?」

初めて。初めてって何がだ?キス?いやいや、そりゃないだろ。流石に親とくらいしてるだろ。頬だしな。男?そりゃまあそうかもしれないが、真っ赤になるとこか?

「つ、付き合うの……!」
「……マジっすか」

おいおい、嘘だろ。だが、オレの外套を掴んだまま逸らされた顔は、とてもそうは見えない。これで嘘だったらとんだ天才俳優だ。
まさか過ぎるだろ。ダイムノベルの有名主人公が、まともなロマンスが初体験だって?事実は小説より奇なりってレベルじゃないだろ。それでも、取り繕えそうな性格だろアンタ。なのになんだその村娘顔負けの初心さは。
……。……こりゃ、面白くなってきたな?

「ビリー」

顔を近づけて、耳元で囁く。勿論わざとだ。肩が震えたのに、腹の中で笑う。

「や、やめ」
「やめろ?無茶言いますねぇ。恋人が初心だって知って喜ばない男はいないだろ」
「こ、こい……」

どんだけ耐性がないんだよ。さて、どうしてやろうかね。脳内でサラサラとプランを描いて、そうして近づけていた顔をそのままくっつける。

「ひ……っ」
「あっついな。……このままじゃアンタ倒れそうだな。水、出しますわ」
「え、あ……。うん……」

開放すると、ぽかんとした顔でこっちを見た。ホントどこまで赤くなれるんだ。
いやいや、しかし、これは色々楽しめそうだな?




****




――さてそれからどうしたかと言うと、オレはこの状況を十分に楽しんだ。
二人きりじゃない時は何もしないつもりだったが、メシの時そっとテーブルの下で手を握ったり、レイシフトでの戦闘後に「おつかれさん」と肩を叩いた時にそっと首筋を撫でたり……まあ色々だ。その度一瞬硬直するのに(流石にあの時ほど真っ赤になったりはしなかった)優越感というか、達成感を得ていた。思えばとんだ性悪だ。だが、まあ、仕方がないよな?
だが、それ以上のことはわざとしなかった。キスすらも。してみたくはあったんだが、あの時のアレからするに、本当にぶっ倒れるんじゃねぇかって心配してるのもある。流石にそんなになるまでやったら駄目だろと、オレの良心が待ったをかけたからだ。

「……」
「……」

とは言ってもだ。部屋に二人きりになれば、何かしたくなるのは仕方のないことで。
どう切り出すか、動くか、考える。カチカチと時計の秒針の音だけがするという、ベタなシチュエーションのまま時間が流れていく。
……ほんと、なんだこの空気。男二人で作る空気じゃないだろ。こっちまで恥ずかしくな……いやいやいや。

「……あー」

ちら、と横を見る。しきりに瞬きしてるのは、どうしていいか分からないからか。ほんと慣れないな、オタク。
あのな、こっちだってこんな状況初めてなんだよ。多分アンタは、オレのこと慣れてると思ってるんだろ。でもな、ナンパが好きですとか言うやつがこんな初心な恋愛してる訳ないだろ。もっと楽で後腐れのないのばっかりやってきたんだよ。自分で言ってて碌でもないと思うけどな。

「オタクね、いい加減慣れません?」
「……無茶言わないでよ」
「飲み込みいい方だろ。イケるって」
「無理。……ずっと、ドキドキする。これからも」

ずっと。これからも。
ああ、分かった。理解した。オレがナンパが好きな理由。こういうのに耐えられないからだ。無理だ、なんだこの破壊力。アンタ多分、そういうギャップで無意識にオトしたやつ絶対いますわ。うわー質悪い。

「……ねえ、ロビン」
「なんだよ」
「君、顔赤いよ?」

一体、誰のせいだと思ってるんですかねえ。ムカついたから、真っ赤どころか酸欠で気絶させてやれ。







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