白黒的絡繰機譚

変化して元の鞘

性的行為はしていないですが下品

「……」

ベッドに横たわって天井を見上げた。今俺達がいるのは十月機関の本部だ。野宿じゃないし、逃亡中でもない。普通に考えりゃ、それはとってもいい事だ。周りを警戒することなくベッドで眠れるなんてのは幸せだ。それは俺も十分わかっている。だが、今の俺にとってはそのありがたさが迷惑で仕方がない。

「チクショウ」
「……どうした」

俺がそう呟いて起き上がると、椅子に座って銃を磨いていた相棒が顔を上げた。普段と変わらない顔が、今は癪に障る。

「なんでもねぇ」
「どこ行くんだ」
「便所だよ」

言い捨てて部屋を出る。別に便所に行きたい訳じゃない。いや、違う意味で行った方が良いのかも知んねぇけど。
とにかく何でもいいから身体を冷やしたいけれど、建物の外に出るのはやっぱり駄目だろう。俺だって今の状況くらい分かっている。相棒はあんまりそう思っちゃくれてねぇみたいだけど。

「バッカみてぇ」

廊下にある窓から身体を乗り出して、空に叫ぶ。バカじゃねぇのと相棒はよく俺に言うけれど、今の俺は間違いなくバカだ。

「あー、タバコ吸いてぇ」

一本でも吸えりゃ、ちっとはマシになるんじゃねぇかと思う。今の俺は青臭いガキみてぇな熱を持て余している。
この十月機関とかいう魔導結社は、俺達みたいな奴に協力するのが仕事だか使命だかとかで、恐らく相当無理な事を言わない限りは、何だってしてくれるんだろう。……かといって「溜まってるから女寄越せ」なんてのは流石にまあ、ナシだろうと俺だって思う。ドンパチやってる最中だ、そんなの自分で何とかしやがれってんだ。
アメリカにいた頃は女になって不自由しなかった。逃亡中にゃ女を抱く訳にはいかなかったが、そん時は相棒とヤってた。今回もそうすりゃいいんだとは思う。最初は仕方なしだったとはいえ、相棒とヤるのは嫌いじゃない。寧ろ好きかもしれない。アイツの困り顔が段々雄になってく姿は、結構クる。タラシだと思ってはいたが、セックスもうまいなんてな。

「タバコ吸いてぇ。タバコ吸いてぇ」

戦争中なのも、銃がねぇのもどうでも良い。でもなんで、ここにはタバコがねぇんだ。

「――うるさいぞ、ブッチ。便所はどうした」
「うるせぇ」

がちゃりと扉が開く音がして、相棒がそう呼びかけた。俺は一瞬目を合わせてから、また窓の向こうを見る。どこかでじんわりと、火の手が上がったような気がした。

「なあ、お前さ」
「なんだ」
「俺とヤってる時何考えてんの」
「……」

相棒が何か残念なものを見るような目で俺を見る。そして周りをきょろきょろと見回してから、俺の腕を引っ張って部屋へ引き入れた。俺を椅子に座らせ、相棒はベッドの端に座った。

「なあ、何考えてんの」
「……さあな」

相棒とヤるのは、いつも木の影だったり、廃屋だったり逃亡中の最終手段だ。街にいる時は女を買えば良い。例えイイ女がいなくたって、そこでじゃあ相棒とヤろうかなんては流石に思わない。思わなかった筈なのに、何だかいつの間にかヤりたくなった時には相棒とばかりヤってる気がする。いや、気がするんじゃなくて事実か。逃亡生活が長すぎる所為だけじゃあない気がする。

「さあな、じゃねぇだろ。流石になんか考えてんだろ」
「覚えてねぇよ」
「覚えとけよ」
「お前、今日はどうした?」
「べっつに」

溜まってる所為かイライラして、上着を適当に投げ捨てて銃を握る。そのままベッドの端に座った相棒の膝の上に乗る。

「おい」
「黙れ」

イライラする。早くヤって眠りてえ。

「ブッチ」
「黙れっつったろ」
「さっきのだけどな」
「だから」

相棒が銃を構えた俺の手をゆっくり下ろす。

「覚えてはねぇけど、どうせお前の事しか考えてないぜ」

――ああ、そうだ。コイツはタラシだ。しかも割と、無自覚の。

「……どうした?」
「いや、なんでもねぇよ」

にっかり笑って見下ろしてやる。我ながら単純か。でもそれでもいいじゃねぇか。
そうだ、今ここに俺がいて、相棒がいて、それで十分じゃねぇか。
いつもみたいにキスをしようとして、ふと思い止まる。

「キッド」
「またお前、碌でもない事考えてるだろ」
「あ?ンな訳ねぇじゃん。……ほら」

相棒の首に腕を回して、唇を突き出す。俺は間違いなく男だけれど、コイツの前で女みたいな事をするのは嫌いじゃあない。

「ほら、じゃねぇよ」

はあ、と相棒が溜息を吐く。呆れてはいても、俺の言う事を聞く奴だってのは、この10年で知っている。
お互いもうすっかりタバコの味も匂いもしなくなったキスをして、そのまま相棒を押し倒す。
ああ、くそ。普段と違うのは場所だけだってのに。

「……ヤベ、すげぇ興奮する」
「そうかよ」
「お前は?」
「……まあ、それなりに」

もう我慢できなくて、今度は俺から相棒にキスをする。
ったく、サイコーだよお前はさ。