指先に証を
一番見られたくないのは誰か、と聞かれればあの三兄弟だ。(絶対に笑われる)けど、アンタになら見られても良いってわけじゃない。
「それは……」
「み、見るな!」
後ろに手を回して隠したところでもう遅い。
男には普通似合わないし、しないものを見られた後だ。
……こういう時、コイツの観察力は嫌になる。
「もう見てしまったが」
「…………」
わざわざそんな事を宣言してくるところも、嫌になる。
言わなくても、俺だって分かってるさ。
「理由を尋ねても良いか?」
すい、と隠した右手を取られる。
日の目に晒されるのは、キラキラゴテゴテしたカラフルな爪。
「蛇どもが……」
あのボーボボとかいう奴との戦いで美に目覚めてしまった俺の蛇爪は、こうやって飾りつけてやらないと言う事を聞きゃしない。
ので、決してこの爪は俺の趣味という訳ではない。
断じて、違う。絶対に。
「ああ、そういう事か。しかし、なんというか……」
蛇、と聞いて理由に思い当ってくれたらしい。(一から説明するのも嫌だし、ありがたい)
そしてさっきからジロジロと物珍しそうに俺の爪を眺めている。
まぁ、アンタの知識の中にこんな情報はないだろうな。
……それにしても、見すぎだ。
「……なんというか?あといい加減放せ。俺の爪は見せもんじゃねぇ」
掴んでいた手を振りほどく。
少しだけ、掴まれていた場所が痛い。力を込め過ぎだ。
「すまない」
「ったく……やっぱ落とすか。アンタだからまだ良いけど、三兄弟にでも見られたら当分ネタにされるに決まってるしな」
蛇どもは文句言ってくるだろうが、背に腹は代えられない。
「落とす?」
目を見開くようにして、心底驚いた様な声と表情。
あんまりお目にかかれないアンタの無表情以外の表情を、まさかこの爪のお陰で拝むことになるとはな。
「何だよ。駄目、とか言いだす訳じゃないよな?」
「駄目とは言わないが、勿体無いとは思う」
「……アンタがこういうモノに興味あるとは思わなかった」
何にも興味無し、みたいな面してる癖に。
「別に興味は無い」
「……言ってる事が矛盾してないか?」
「矛盾はしていない。お前だから、という理由で全ての矛盾が片付くだろう?」
再度俺の手を取って、指先に……。
「……アンタって、時々真顔で凄い事するな」
顔に、血が上っていくのが分かった。
左手の蛇どもが、ざわついている。
「そうか?」
自覚無しかよ。
……もしかしたら、見せる度にしてくれるんじゃないか、と思ってしまった。
ああ、俺らしくない!
「ねぇ、今度は違う色を試してみましょうよ」
蛇どもの楽しそうな声がする。
何時もなら一括するそれを、今は出来そうにない。
何か、戻れない方向へ進んでしまいそうな気が少しだけ、した。