白黒的絡繰機譚

普通恋愛

お前を、お前だけをこんなに、こんなにも愛しているから、だから、だから、だから!

「ベーベベ、愛している。だから殺さしてくれ」
「……死にたいのか?」
「何故そうなる」
「その言葉、そっくりお前に返すぜ」
「俺の言葉に何かおかしい所でもあると言うのか」
「……おかしい所しかないだろ。大体、男に『愛してる』って……」
「お前が男だということは勿論分かっている。それを考慮しても、俺はお前を愛していて、だから殺したいんだ」
「…………」

ベーベベは何か言いかけて、止めた。
……しかし、どこがおかしいのだろうか?
俺はベーベベを愛してる、だから殺したい、それだけじゃないか。
もうこれ以上簡単に出来ない程簡単で、分かり易い理由。

「……ああ、殺すだけじゃないぞ。ちゃんとホルマリンに漬けて毎日話しかける。愛してるから」
「どうしてそうなる!」

なんだ、俺が殺した時点で満足して飽きるんじゃないかと不安なんだろうと思ったのだが……。
じゃあ、保存方法だろうか。

「ホルマリンは嫌か?」
「そうじゃねぇだろ! ……お前、本当にわかんねぇのか?」

ベーベベが呆れたような、悲しそうな声を出した。

「分からない。どこがおかしいというんだ?」

分からない。
愛してるから、誰よりも愛してるから殺したい。殺して、独占したい。
俺はただ『普通に』愛している、それだけなのに。

「……『愛してる。だから殺さしてくれ』こんなこと、受け入れられると思ってんのか?」
「普通だろう?」

小さい頃から、ずっと、そうして愛してきた。
中には飽きてしまって捨ててしまったものもあるけれど、ベーベベ、お前だけは違う。

「普通なわけないだろ……?! 白狂、お前……普通じゃねぇよ……」
「普通、じゃない?」

小さい頃から、ずっと、異端だと言われ続けてきた。
でも、愛することを知っているから、大丈夫だと思ってたのに、それなのに、それすら普通じゃない?
お前がそう、俺に言うのか?なあ、べーべべ。

「ふつうじゃない……」

普通じゃないと、嫌われる。
普通じゃないから、嫌われてきた。
そんな中、この闇の世界では、普通じゃないから受け入れられた。
でも、今、普通じゃないから拒絶されてる。
……どうする?どうしたらいい?どうするべきだ?
今更俺は普通なことが出来るだろうか。
仮に出来たとして、それは何時までもつだろうか
でも、普通じゃないと、ベーベベが俺を愛してくれない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう!?

「白狂……お前……」
「う、ああ、あ」

頬に何かよく分からない感触がつるりと滑っていく。
何だろうこれは、初めてだから分からない。

「お前、泣いて……んのか……?」

『なく』って何だ?
俺はそんな言葉は知らない。知らないんだ。

「分からない。ただ俺は、お前に、」

愛してほしい。
その言葉は口からちゃんと出ただろうか。分からない。

「……はは。何だ、お前、普通に泣けるんだな……。知らなかった……」

俺も知らなかった。
自分が『なく』――『泣く』という行為が出来る事なんて、これっぽっちも。

「泣けるうちは、多分大丈夫だ……。うん」
「そうだろうか……」
「信じてやろうか」
「……お前が? 俺を? 本当に?」
「俺はオコサマに嘘吐くほど意地の悪い人間じゃないんでね」
「……子ども扱いするな」
「子どもで間違ってないと思うがな」
「子どもじゃない」

子どもなんかじゃない。
子どもは愛されたいと思うが、俺は愛したい、愛しているんだ。
その証拠のように、俺はベーベベの身体を引き寄せて、口を塞いだ。

「……っ、ふ……っ」

何度も角度を変えて、深く。
どこかで耳に挟んだ様に甘くはなく、むしろ煙草の苦い味がしたが、それはとても俺を満たしてくれた。

「……子どもは、こんなことしないだろう?」
「……っ、そう、だな」

キスしてみて、再確認した。
やっぱりお前が好きだ、愛してる。そんな想いを噛みしめる。
もっとキスしたい、抱きしめたい、それ以上のことがしたい。
こうやって二人だけでいる時間が欲しい、時間だけじゃなくて全てが欲しい。

「あ、れ?」
「白狂?」

気が付いた。いつもと違う。
いつもはこんなこと思わない。
俺にとっての『愛する』こととは違う思いが湧き上がってくる。

「こういう、ことか」

多分、これが『普通』なんだろう。
お前にだけ抱くこれが『普通』の感情。
そう、きっと俺は何時までも普通じゃないだろう。
でも、ベーベベ、お前になら普通になれる気がする。
だから、もう一度。もう一度言おう。もう一度言って、やり直そう。

「ベーベベ、愛してる。だから、」

どうか俺と普通の恋愛をしてくれないか。