白黒的絡繰機譚

甘い生活

熟れた果物より、お菓子より、砂糖より甘い――。
そんな生活を望んでは、駄目?

「ボクに優しくしてくれる人と暮らしたいのらー」

(一応)犬の子は前置きもなく突然、そう言った。

「ほう……?何だいきなり」

淹れようとしていたティーポットを置き、向き直る。
犬の子――田楽マンは、テーブルの上のシュガーポットを意味もなく弄って遊んでいた。
……なんてことはない、ありふれてしまった風景だ。
先程の言葉以外は、だが。

「んー?何となく思っただけ」
「ほう。何となく私に対する不満を突如思ったと?」
「いや別にそんなんじゃ……」
「では、何だと言うのだ?」

我ながら意地の悪い聞き方だとは思う。
だが、仕方なかろう?

「ビュティとこの前一緒に読んだ本に書いてあったのら」
「……ほう、で?」

『ビュティと』というところが多少気になったが、私は大人だ。
これくらいの事にいちいち目くじらを立ててはみっともない、だろう。

「『一緒にいたいと思うなら、お金や容姿も大事だけれど、もっと本質を見なきゃ駄目』って」
「……田楽」

声が低くなってしまった。
……いけない。もっと、ここは、穏やかに……しなければ……。

「の、のら?」
「それで『優しい人がいい』と……?」
「うん。そりゃお金もあったほうがいいだろうけど、そんな使えないほどは要らないのら」
「お金持ってる人より優しい人の方がボクは好きなのらー……ってアレ?!く、クラさん?」

視界が暗くなる。
ああ、なんて情けない。
大人として、権力者としてどうなのだ、これは。

「……私では」
「クラさん……?」

白くて小さくて、とても犬には見えない生き物。
きっと金もうけには一切役立たない、そんな生き物に、私は一体何を言っているのだ。

「私では……駄目だと言いたいのか、田楽」

ああ、正気になれハレクラニ。お前は一体何を、言っている?

「……へ?」

田楽は『この人何言ってんの』と思っているのが分かり過ぎるほど分かる顔で私を見た。

「バッカでね?」
「ぅぐ……!!」

精神的大ダメージ。
私はどうしてこの子犬一挙一動にこうも振り回される?

「クラさんが駄目だなんてボク、一言も言ってないのら」
「……ム、しかし……」

あれでは『良い』とも言われてはない……だろう。悲しいことだが、そうなのだろう。

「でも、今のクラさんなら願い下げ」
「……!!!な、な、なな……」
「でも、」

時は金なり、この一瞬は一体幾らだろう。

「ボクは優しいから?行動によっては考えてもあげても良いのら」

フフン、と鼻を鳴らして笑った田楽は私を見上げて、そう言った。

「…………」

その言葉に私は軽く笑い、まずは一礼。
この小さな小さな子犬にも、最低限の礼儀を払わねばなるまい?
そうして温めておいたカップに紅茶を注ぐ。
それを手渡して、優雅に一言。

「では、頑張らせていただこうか」

すると子犬は、満足そうに笑った。






ボクの望むのは、甘い生活。
もしかして叶えてくれるのは……もしかして、あなたなの?