白黒的絡繰機譚

Melt

「にいちゃん、何食ってんだ?」

身体を影から起こすように出せば、周囲にこれでもか、と漂う甘い香り。

「ん?チョコだよ、チョコ」

ホラ、と出された舌にはもう小さくなってしまった茶色い欠片らしきもの。
そしてそれが姿を現すとともに、強くなる甘い香り。

「不壊も、食べる?」

透明なセロハンに包まれたそれを差し出してくる様子はとても可愛らしい、が。

「……にいちゃん、俺は人間の食いモンは食えねぇよ」
「あ」

こちらは所詮、妖。
その誘いに乗ることは出来ないのだ。
勿論全く食べるものが違うという訳ではない。けれども、自分にはその食べたものを消化するための器官が何一つない。
何故なら、この黒い服の下は空っぽなのだから。

「ま、俺は気にせず食っちまいな」

そんな事を言ったところで仕方が無い。
種族の違いだけをアピールして適当にお茶を濁しておく。
にいちゃんは、俺の身体の事情なんて知らなくて良いのさ。

「うん」

ぴりり、とセロハンを剥がされ、口の中へと放り込まれる。
予想とは違い少しずつ舐め、溶かされていくソレはその度に香りを増していく。
嗅ぎ慣れない香りは近くにいるだけで無い身体がある位置を浸食してくるようだ。

「……」
「……なぁ、不壊」
「ん?」
「……そんなに見られると、食べづらいんだけど……」

困った様に下がる眉と、少しだけ赤味の増す顔。
……ああ、これも浸食、だ。
それも無い身体と種族を乗り越える様な、強烈な。

「……なぁ、にいちゃん。口ん中甘ったるくないか?」
「え、うん……っ?!」

舌で唇をなぞる。……やはり、甘い。
歯、甘い。
口中、やはり甘い。

「……甘」
「……っ、なにすんだよ」

はぁはぁ、と肩で息をして、涙の溢れそうな上目遣い。
それはまるで溶かされ、溶けそうな、

「口の掃除と……味見、だ。にいちゃんが随分美味しそうに食べるんで、ね」

――甘い、侵食。