白黒的絡繰機譚

どうか心地の良い夢を

疲れているのだから、この時ぐらいはせめて。

「眠い……。疲れた……」
「頑張れよにいちゃん。あと少しだ」

夜の暗い道を、少年と彼の個魔が歩いていく。
昼間のげぇむの所為で、少年はどうも疲れきっているようだ。

「もー無理!今日は野宿で良い!」
「おいおい……。明日が辛いぜ?」
「それは分かってっけど……無理なもんは無理!」

そう言うと、少年は脇に生えていた木の下にドサリと横になってしまった。

「ったく……。明日『身体が痛い』とか言っても俺は知らねぇからな」
「……」

反応は無い。
よほど疲れていたのだろう。どうやら既に意識は無いらしい。ただ規則正しい呼吸音のみが聞こえる。
それを少しの間、少年――多聞三志郎を見下ろしていた個魔――不壊は呆れたようにハァ、と溜息を吐いた。
上半身のみを残し身体を影にしまうと、まじまじと眠る三志郎の顔を見つめる。

「にいちゃんは……、無茶しすぎなんだよ」

ポツリ、と不壊の口からそんな言葉が洩れる。
――不壊には、三志郎の思いを全て理解できなかった。
何の迷いも無く、他人の為だけに自分を使う事のできる少年。
彼はきっと『皆のため』に上がりへと行くことを諦めないだろう。

「もう少し、自分を甘やかしても良いんじゃないかねぇ……」

それは妖逆門に引き入れた本人の言えることではないけれども、不壊の本心と言えるであろう呟きだった。

「……ふえ」

三志郎の口から、吐息と共にそんな声が洩れた。
その言葉に不壊は少し顔をしかめる。

「……甘やかしてもらえる奴の夢でも見りゃあ良いのによ……」

自分なんぞのいる夢では、現実と変わりが無いだろうに、と不壊は溜息を吐く。
……しかしそう思いながらも、不壊の口元は少しだけ緩んでいた。
緩ませた本人は少しもそれに気付かぬまま、身体を影の中へと戻していく

「おやすみ、にいちゃん」

ただ、後に残るは幸せそうに眠る少年一人。