白黒的絡繰機譚

ごめんね。

「じゃ、おやすみ~」

そう言って逃げた。
――扉を閉めてベットへダイブ。ばふん、と音がした。

「……はぁ」

布団と枕に顔を埋めてため息を吐く。
吐き出される息は顔と同じくらい熱い。

「うー……。はぁ」

枕から顔をあげて思いっきり深呼吸をする。胸一杯に冷たい空気が流れ込んで、すぐ温かくなる。
こうやって喉に入ってくる冷たい空気は、火照った顔を冷やすのにほとんど役に立たない。
それよりもさっきの事が頭の中でグルグル回って、余計に体温が上がってる気がする。

「……ソニックのアホ」

そう、俺の顔が火照っているのは全てソニックの所為。
うん、全部、全部ソニックの所為だ。
きっとそう、多分、もしかしたら……俺の、所為。


――仕事という名の処刑が終わって、時間はとうの昔に夜。
それなりに疲れた身体で、俺は自分の部屋へと向かう。

「……あれ」

部屋の少しの手前の壁。逆立った青い髪の毛の持ち主が寄りかかっている。

「!パ、パナ!! あ、お、お疲れ!!」
「うんお疲れー。こんなトコでどうしたの?」

俺の部屋とソニックの部屋はそこまで近くない。
それなのにアーマーすら外さずに立っているなんて、

(……期待しても良いのかな)

何を、なんてもし聞かれたら答えられないけども。
意外と行動力の無いソニックがわざわざこうしてくれたことに、俺はどうもこっそり舞い上がっているらしい。

「え……、あの、その……」

ソニックの顔が赤い。
……うん、こういうとこが好きだな俺。

「もしかして……。俺を待っててくれた、とか?」

あくまで軽い口調で、俺の希望を言ってみる。
まあ……希望っていうか真実なんだろうけどね。ソニックって分かりやすいから。

「ああ……うん。それで……あの……」
「なに?」
「……パナ、俺の部屋、来ないか……?」

「……え?」

ちょっと待って、今の何?
こんな時間に『俺の部屋に来ないか?』
男同士とはいえ俺たち付き合ってるんだよね?ってことはやっぱりそういうこと?
ちょっと待ってちょっと待って!
これの展開は予想外すぎるって!
……そんなどうでも良いことがぐるぐる頭を回っている間に肩を掴まれて、顔が近付いて、

「パナ……」

俺の耳元で俺を呼んで、何時になく真面目な表情をソニックはする。
つまりは、やっぱりそういうことなんだ。
それがおかしいわけじゃない。嫌なわけじゃない。怖いわけでもない。
なのにどうして俺は逃げたいんだろう?
それに逆らえなくて、俺は、

「……じ、じゃ、おやすみ~」

拘束からすり抜けて、そう言って逃げた。

……結局逃げたのは俺。本当に余裕なんてなかったのは俺。
悪いのは……全部、俺。

「……ごめんね、ソニック」

ごめんね。
怖いわけないし、嫌いなわけじゃない。
ただ、俺の方がよっぽど勇気がなくて、それだけ。
……きっと明日には大丈夫だから。大丈夫になってみせるから。
それで許して、なんて言えないけどさ。朝一番に会いに行くよ。