白黒的絡繰機譚

噛むなんて勿体無い

「例えばさ……」

そう言ってソイツはひやりと笑う。

「俺がもし本当に蛇だったとしたら」

これはきっと、とてもくだらない話。けれどそれなりに、大切かもしれない話。
俺とコイツの、何かに関わる話。

「……そんな事になったら、俺は逃げさせてもらうぞ」

きっとコイツの事だから大蛇だ。
……想像するだけでも、恐ろしい。絶対に出会いたくない。

「冷たいねぇ、ジェミニちゃんは。まぁ聞くだけ聞けよ」

しっかりと正面から肩を掴まれてそう言われてしまえば、俺に拒否権なぞない訳で。
……元から存在していたかどうかも怪しいが。

「で、お前が蛇だったら何なんだ?」
「そうしたら、お前を丸呑みに出来るな」

何時もより随分と楽しそうな笑顔で言われたその言葉は、あまりにも変なものだった。

「……お前、大丈夫か。色々と」
「御心配はとても嬉しいが、俺はいたって正常だぜ?ジェミニちゃん」

そんな状態が正常だから、俺は毎回ロクな目に合わないんだろう。
けれど、それに過剰反応を示さなくなった自分は、耐性がついたのだろうか?
それとも、不本意ながらコイツという存在に、馴染んでしまったのだろうか?
わからない。わかりたくもない。……けれど、そう思ったところで、蛇に睨まれた蛙が如し。

「そうか。けど、俺はお前に丸呑みにされる気はないぞ」
「お前がされる気なくとも、俺が勝手にするがな。いやしかし、出来たらどんなに良いだろうな」
「…………」

肩を掴んでいた手はいつの間にか腰に移動している。
舐めるように這っていく手は、本当の蛇みたいだ。本当の蛇だったら、どんなに簡単だっただろう。

「少しもお前を壊すこと無く、綺麗なままで呑み込める。うん、やっぱり良いな」

まあ、俺としてもどちらかと言えば壊すこと無くそのままが良い。
呑み込まれることが前提なのがとてもアレなのだが、それは目を瞑っておく。

「……で、こんな回りくどいたとえ話の意味は?」

何だかんだで、コイツは内容のない話はしない。
たとえそれが、随分とおかしな語り口調だろうとも。理解したいなんて微塵も思っていないのに、理解してしまっている。

「あ?分かるだろ?」

分かるさ、お前が今から俺に、キスすることぐらいはな
丸呑みに出来ないから、とか言い訳付きで。酷くしつこくて粘着質なやつだ。毎度そうだからな。

「俺が俺なりに、お前を誰よりも愛してるってことさ、ジェミニ」

ああ、そうですか。
お前の愛情は、慣れた行為以外では、分かりにくくて仕方ない。