白黒的絡繰機譚

どうかお手を触れないでください

花瓶に生けてあった花が枯れていた。
枯れたその花は、五日程前にアイツから押しつけられたものだった。
すぐに枯らすだけだからいらない、と何度も言ってみたんだが……。
けれど、菊ノ丞は引き下がらなかった。

「別に何もしなくていい。別に長持ちさせなくて良いから飾るだけ飾っとけ」

そう言うと、俺の腕に余る位の花束を押し付けて去っていった。

(本当にそれだけしかしなかったから仕方ないんだが……)

枯れた花々は、俺の目に言っちゃ悪いがとても醜悪に映った。
極彩色は見る影もなく、水分を失いつつあるそれらは乾いていく先から砂のような変な色へと変わっている
指で触れると、ぱさりと花びらは落ちた。
それを拾い上げて軽く摘めば簡単に小さな破片へと姿が変わる。

(こんな風になっちゃあ……流石に捨てるか)

かなりの量のそれを花瓶から引き抜き、少し離れた場所にあるゴミ箱へと投げ込んだ。

(……少し、)

じくりとした罪悪感を感じた。
この花々は、俺がこうやって簡単に捨てたらいけない、そう思ったからだった。
でも、それとは裏腹にもっと早く捨ててしまえば良かったとも思う。

「5日、か」

後ろで声がする。
それに振り返れば、今聞きたくなかった声の持ち主が悠々とこちらに歩いてきた。

「ま、お前にしては頑張った方だな」
「菊ノ丞……」
「とりあえず、これまた入れとけ」

空間から取り出し、手渡されたのは前回とは違う種類の花々。

「……また、枯らすぞ。すぐ」
「別に良いって言ってんだろ」

また、俺はこの花々を砂色になるまで放置するんだろう。
そして膿む様な罪悪感を覚えるのだ。分かり切っていた。

(それでも……)

断る事は、出来ない。俺はこの花の真意を知っているから。
でも、痛い程に分ってもいる。
――枯れた花にも、込められた想いにも触れてはならないことを。







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