大変だった

……何が?
そんなこと、決まっているだろう








得たのはちっぽけな








好きだ、とか
愛してる、とか
人間は結構普通に誰にでも言えてしまうものらしい
別にロボットである自分に不満なんてないけれども、そこばかりは羨ましく思える


「フラッシュマン?」


……ああ、人間が羨ましい
そうであれば、目の前のコイツに今すぐ言いたいことが言えるのに


「いや……何でもない」


何でもない訳が無い
けれど、他に何と言えば良い?


「そう?でも……」


心配しています、と言わんばかりの瞳で俺を見上げてくる
その表情に循環器が、奇妙に跳ねる


「大丈夫だ。何ともない……ありがとうな」


そう言いながら頭を撫でてやる
柔らかな感触が心地よい


「ひゃっ……ちょ、や、やめてよっ」


少しだけ強くなった語尾に、機嫌を損ねてしまったのではないかと危惧する
そういえば、前にも同じことがあった様な
『子供扱いする……』と言われたような気がする

別に子供扱いなぞしてはいないのに
寧ろ、心の底から子供扱いすることができればどんなに楽だっただろうか
逆はあれども、大人が子供に……恋する訳ないだろう?


「あ……悪かった。すまない」


さっきから俺はコイツに謝ってばかりだ
本当にかけたい言葉はそんなものじゃないというのに

そもそも、こんなことになった原因は何だ
俺はただ……博士に頼まれた用事の為に『仕方なく』この研究所にやって来ただけだというのに


「……ううん、良いよ。だって、」


上げた顔と視線が合う
また、ほんの少しだけだが循環器が跳ねる




「フラッシュマンの手、気持ち良かった。フラッシュマンに撫でられるの、好きだよ」




照れたような、はにかんだ様な表情でそう、告げられた


「あ、ああ。そうか」


俺はただ、曖昧な返事しか返せず
循環器が、外に漏れだしそうなほど大きな音で跳ねている


「……あ。僕、お茶も出さずに何やってんだろ。ごめんなさい、フラッシュマンはお客様なのに……」


「い、いや、良いんだ」


跳ねる循環器が、五月蝿い


「そういうわけにもいかないよ。待っててね、今煎れてくるから」


そう言うと、俺を残して部屋から出て行った
その背中を見送ると……全身の力が一気に抜けた


「はは……馬鹿みてぇ」


本人にとっては何の気も無い一言
それなのにまだ、俺の循環器は五月蝿いまま








循環器は奇妙に跳ね続ける
それと引き換えに得たのは、割に合わない様なたった一言と……笑顔だけ
それでも、俺は