アンバランス
最初に言ったのは、ワタシの方だった。「……というか、ワタシしか言ってないね」
「…………」
「君からは、ないのかい?」
「…………」
無言を貫き通すのは、目の前の可愛らしい(口に出したら、きっと怒られるのだろう。只の事実だというのに)ワタシの恋人。
表情からは何も読み取れないが、雄弁な瞳が呆れを浮かべている。
……そんなにしっかりと浮かべられると、流石のワタシも傷つくのだけれども……。
「…………必要が、ない」
根気良く見つめ続けて、引き出せたのはそんな一言。
確かに必要はないかもしれない。
君は最低限の事しか口にしたがらないし、ワタシは君の事をある程度は分かっている。
けれど、ワタシへの言葉は君の『最低限』にも入らないのかい?
「そうハッキリと断言されてしまうと、ワタシといえど不安になるよ」
ワタシより幾分小さな身体を引き寄せて、存在を確かめるように抱きしめる。
例え君がここにいようとも、この腕の中にあろうとも、こうやって瞳を見る事が出来なければ、ワタシは君の気持ちを知る事は出来ない。
「君が思っている以上にね……ワタシは、不安定なのだから」
君の気持ちが知りたくて、知りたくて。今もこんなに必死になっている。
君からすれば、凄く我儘な大人だろう?
けれど、それでも知りたいよ。他の誰でもない、君の事なのだから。
「そんなワタシに、ねぇ、たった一言で良いんだ。君からの言葉を与えてくれないか」
君が言葉を発しなくても良いように、ワタシがこんな言葉を掛けるのも君だけだよ。
どうか、それを分かってくれないかい?
「…………僕は」
君の言葉は、雷光瞬くよりも短くて、
「オマエみたいな、長い言葉は嫌いだ」
けれど、どんなものよりもワタシを痺れさせる。
「それに……お前みたいな、飾った言葉は言いたくない」
君は時間の無駄だというけれど、
「だから……一度だけ。身体を放せ。そして、耳だけ貸せ」
それならば君の言葉を聞く事は、ワタシにとって最高の無駄遣い。
「……君がそう望むなら」
本当は何時までも抱きしめていたいけれど、君の頼みなら仕方ない。
さぁ、君が何時も瞳に隠す言葉を聞かせておくれ
「――――」
掠れるほどの小さな声で、けれど確かに聞こえたのは、ワタシが望む何よりも欲しい言葉。