「そなたは我の太陽だ!」


お前のように、そう言い切ってしまえたら








逃げる月








純粋に、羨ましいと思う
俺はそんな事を堂々と言い切れない
例え比喩表現であったとしても……口に出すことは躊躇われてしまう


「まったく……ファラオは何をやっているんだか。懲りるという事を知らないんだなアレは」


横にいるリングが呆れた声を出す
目の前に広がるのは……何というか、見慣れてしまった光景だ


「毎回言っているでしょう。いい加減にして欲しいのですが……」


地に沈むファラオと、それを見下ろす水色のDWN
要請を受けて回収に来るのは何度目になるだろうか?


「……毎度迷惑をかけて済まないな」


強制スリープ状態になっているファラオを担ぎ上げ、水色のDWNに頭を下げる


「そう思うのでしたら、そのミイラを棺桶に封印しておいてくださいませんか?」


ニコニコと人が良さそうに笑う割には、言う事が伴っていない
……多分、ファラオはこの笑顔しか見ていないのだろう


「そういう訳にもいかないのだが……」


「こちらへ迷惑をかけないよう出来る限りで見張っておくようにする。だから……」


「そうしていただけると助かります。ええ、別に貴方達は何も悪くありませんからね……」


氷の微笑、とはこういうものを言うのだろう
冷気を纏っている様なそれに、俺もリングも苦笑いしかすることが出来ない
ファラオはそんな彼を『太陽だ』と言っていたが……いやいや、これは……


「そ、そうか。本当に済まなかった。だから俺たちはここで失礼させてもらう」


「そう、そうだな……帰るか、リング」


強制スリープが解除されれば、大変なことになるだろう
それだけは避けるために、俺たちは急いで踵を返した








「しかし……ファラオも懲りないよな」


「そうだな。普通ならあそこまで拒絶されたら諦めるだろうに」


そういえば、城以外で会話する機会は久しぶりだ


「あの諦めの悪さは……!済まない、通信が入った」


リングが少し距離を取り、通信と会話をする
リングの受け答えから判断すると……


「……悪い、要請が入った」


済まなさそうに肩をすくめるのがお前らしい
けれど、お前が忙しい事を俺は知っている


「分かった。なに、俺一人で大丈夫だ」


……元々、俺一人で連れて帰る事は出来る


「そうか、済まない。じゃあ急ぐから先に行くな」


だが、お前と共にいる機会が少しでも欲しかった
我儘だろう、俺は
ファラオと違って、お前に告げる勇気もないし、元よりそんな権利も持っていないのだが
それでも、お前が

だから俺は、お前を此処で送ることしか出来ない






「…………ここは。スカル?」


リングの姿が全く見えなくなった頃、肩の上でファラオが目を覚ました


「気がついたか。あちらからお前を持って帰って欲しいと言われてな……いい加減諦めたらどうだ」


「……ふん、彼の者を妃にするまで諦める訳無かろう」


「そこまで『太陽』にご執心か」


ファラオは、あのDWNを『太陽』と言った
外見や雰囲気はそれにはまったく結びつかない
けれど、なんとなくは、分かる
俺もお前も、届かぬものに手を伸ばしているという事が


「何とでも言うがいい……スカル、我は知っているからな」


何を、とは聞かない
いや……聞けない








「手を伸ばす努力もせずに、失いたくないと焦がれるのは、愚かだぞ。スカル」








……けれど、俺にはお前のように正面から手を伸ばすことなぞ出来はしない