白黒的絡繰機譚

多分、幸せ

「……何で来るんだよっ」

部屋の扉を開けると、盾がいた。
まあ、ここは盾の部屋だし、いるのは知ってたからそれは別に普通のことなんだけど。

「なんだよー。少しは喜べよな」
「迷惑だとは思うけど、何でよりによって喜ばなくちゃなんねーんだよ!」

ちょっと声を荒げて盾は怒る。
顔に赤みが差してるとこなんかを普通に可愛いなー、なんて思っちゃうあたり俺って相当末期?
ま、末期でも別に良いけどな、別に。

「休みの日に毎日会いに来てくれる恋人が嬉しくないのかー?」
「…………」

……なんだよ、そんなあからさまに聞かなかったフリはないだろうが。
別に俺の勘違いとか願望なんかじゃなく俺と盾が『恋人』同士なのは事実なんだし。
流石に広い心をもった勇者の俺でも少しは傷つくっての!

「なー、盾ー?」

俺達『恋人』同士だろ?
あの日、俺の言葉に頷いてくれたってことはそうだよな?

……なあ、盾。
俺ってさ、意外と心配症なんだぜ?
そういうツンデレっての?も嫌じゃないけど、度が過ぎれば不安にだってなる。
たまには見返りをくれよ、なあ。

「…………アンタは、」

俺から顔を背けている盾が、少し小さな声を出す。

「毎回毎回……どうしてこう、嫌なタイミングで来るんだ」
「顔が見たい、なんて思うんじゃなかった」
「盾」

さらに小さくなった声で、反射的に目の前の身体を抱きしめる。
なんかもう、こんな事を偶に言ってくれるなら普段その口から出てくる言葉の9割が罵声でもまあ良いか……なんて思ってしまう。
きっと盾自身は俺に振り回される、って思ってるんだろうけど俺の方がよっぽど盾に振り回されてる。

「あー、俺やっぱ盾が好きだわ」

凄く今更な再確認。
分かり切ったことだと思っても、ふとした弾みに思わずにはいられない。

「なっ……」

残念だけど今は反論禁止。
指で押さえるよりも深く塞いで遮ってしまえ。
…………今、俺、多分一番幸せだわ。