白黒的絡繰機譚

絶対服従

どうして、どうなって、何がなんだか、分からない。
原因がよく分からない。
そもそも、原因があったのだろうか? そうだとして、きっと俺には分からない。
頭の構造が根本から違うから、仕方ない事なんだ、それは。

「何考えてる」
「……俺の考えていることくらい、分かるでしょう?」
「まぁな。だが、あえてお前の口から言わせる方が面白いからな」

ククッ、と喉で笑うのが上から聞こえる。
この人――ビービビ兄ィの笑い声は、昔からそう聞くものだった。

「そうですか……」

だからやれ、と無言の命令が聞こえる。
ならば、応えるしか俺に出来ることはない。兄が望むならその通りに、それが俺の信条なのだから。

「で、何考えてる」
「どうしてこんなことになっちゃたかなー、と」

ははは、と付け加えた笑いが我ながら虚しい。
押しつぶされそうな圧力がちょっと嫌だったから、それを振り払うようにそうした訳だけれども……勿論、そんな事は無駄なのだ。

「ほう、不満か?」
「いえ……。そういう訳では、そりゃもう、全然」
「何だ、ハッキリ言ったらどうだ」

言わせたいのだろう。
俺の口から、ハッキリと『嫌ではない』と。
……いや、寧ろ『望んでいました』とか、そういう類の言葉を引き出したいのだ。

「……」
「兄の命令が聞けないのか?」

やはりこの人は良く分かっている。
俺を動かす術を熟知しているこの人は、やはり俺とは違う生き物なのだ。

「不満はないです」

けれど、俺だって……最低限のプライドというものがある。
……この状況――床に縫い留められて見下されている――で、今更プライドもへったくれもないのは俺自身が一番よく分かっているが。

「そうか。なら深く考えなくても良いだろう?」

出来る事なら俺も深く考えることはしたくない。
……だって、考えれば考えるほど深みにはまっていくような気がしてならないからだ。
それが何の深みなのかは、よく分からないけれど。

「お前は、俺に何時までも従っていればいい。俺に従い、全てを差し出せ」

そう言われてしまえば、それでも良いかなと思ってしまう辺り、俺は相当な兄貴信者だ。
ずっとずっと昔から、自覚していた事ではあるのだけれど、それでも思う。
俺の身体を床に縫い止めていた手と髪が外れ、そのまま上半身を持ち上げられる。

「……返事はどうした?」

さっきよりも随分と近くでそう問う顔には、もう返事を確信しているからだろう笑みが溢れている。
ああ、やはりそうなってしまう運命なのだ。
この人はやはり、俺よりも俺の事を分かっている。
そうつまり、俺の取るべき行動は一つ、返事をする事だけだ。

「はい」

……仕方ない。そう、仕方がないんだ。
だって俺はこの人に一生、勝てないのだから。







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