白黒的絡繰機譚

アンダーワンアンブレラ

日本は今、梅雨の真っただ中。
連日の雨に辟易していたが、今日は晴れ間を覗かせていた……のだ、午前中は。

(天気予報は50%って言ってたっけな……)

その50%がしっかりと当たり、今――放課後は結構な量の雨が降っている。
雨を降らせている雨雲は、まるで今の俺の気分を代弁するかのように黒く、重くたちこめている。

(早く、帰りてぇ……)

今はもう放課後で、やることは無し、ハッキリ言ってもう帰るだけだ。
だけど、俺は今どうしても帰ることができない。
その『原因』の所為で俺の気分はどん底状態に陥っているのだ。

「…………」

無言で目の前にいるその『原因』である我がクラスの担任・鋼野を睨みつける。
けれども、今まで下を向いたり窓を見たりして視線を逸らしていたせいか、やけに嬉しそうな顔をされてしまった。
そんな様子に俺は溜息をつくことしかできない。

「…………アンタさ、」

沈黙と少しずつ勢いを増す雨に先に痺れを切らしてしまったのは俺だった。
ああ、こんな奴に根負けしたことが悔しい。

「んー?なんだ盾?」

ニヤニヤしやがって、気持ち悪い。

「俺と『そんな事』がしたいなんて、頭おかしいんじゃね?」

軽蔑したようにそう言い捨てても、応えているような気配は微塵もない。
……マゾか、もしかして。

「おかしいのは俺じゃなくてどっちかってーと盾、お前」
「何で俺がおかしいんだよ……!」

俺は至って普通だ。
これだけは間違いないだろ、どう考えても。

「俺は今日不覚にも傘を忘れた。ならどう考えたって盾、お前の傘に入れてくれるべきだろ?」
「だーかーらー……傘を忘れたのはどう考えたってアンタの自業自得。俺は関係ねー」
「関係ならあるさ」
「…………なんで」
「俺は盾、お前の恋人だから」
「…………」

……認めたくないけれど今の鋼野の発言は紛れもない真実で。
『だからどうした』と返してしまえばそれで終わるけれど、俺の喉はそれを吐き出せない。
……ああ、これは腹を括れってことか?そうなのか?

「せっま」

……男二人での相合傘は、思った以上に狭かった。